データのアクセスとハンドリングの両方に課題

このように集められたデータのポテンシャルは高いものの、やはりデータの扱いというのは難しいと私も認識しています。そして、その理由を私なりに考えてみました。まず問題は、アクセスの問題とハンドリングの問題に分けられると思います。アクセスの問題は、患者情報を作り出す人間は主治医や看護師など一部の人間に限られており、それ以外の人が書いたり、書き直したりすることが認められていません。これは傷病情報が個人情報として位置づけられているため、データの統一性を実現するために二重・三重にアクセスすることができないのです。

そしてデータのハンドリングの問題は、やはり統計学的・疫学的知識に基づいた精緻な解析・解釈・評価がこれまで以上に重要になってくるということです。分かりやすい一例を挙げますが、喫煙者・非喫煙者で無作為に1万人の集合を作り、20年生存率を比較すると、喫煙者の方が死亡率が低く出ることがあります。もちろん喫煙者の方が元気なわけではありません。2つの集合は同じ1万人でも、人口構成が大きく異なるため高齢者の比率の少ない喫煙者のほうが死亡率が低く出たのです。

統計学で、こうした解釈の誤りが生まれることは決して少なくありません。アクセスの問題、ハンドリングの問題と、いくつもの障壁がありビッグデータというのは扱いにくいという認識・空気が定着してしまっているのではないかと思っています。

ヒューマンデータ・サイエンティスト育成への期待

このように、一筋縄ではいかない保健医療情報の利活用ですが、それでもビッグデータの解析は効率の良い医療の実現や革新的な医療の開発に扉を開くものです。そのために不可欠なのが、先程も紹介した「保健医療プラットフォーム」の構築で、その概要は次のようなものです。

●個人情報の確実な保護を前提に、健康・医療・介護のビッグデータを連結したプラットフォームを構築。研究者、民間、保険者、都道府県等が保健医療データを迅速・円滑に利用することを可能にする。

このプログラムでは、データ分析の専門家が医学研究と医療の両方が高い水準で展開されている大学病院という場所を最大限活用して、ヒューマンデータを効率的な活用するための知識を包括的に提供します。

同時に、参加いただいた方々に「知識の水準をどうすれば高められるか」「最適な育成方法はなにか」などを双方向的に検証する産学共同研究の場として提供することも考えています。これによって本格的なヒューマンデータ・サイエンティストを養成し、日本の医療の底上げに貢献できればと考えています。

1年間で実践力を身につける

プログラムの主体となっているのは、京都大学の社会医学健康系の2年制の修士課程(Master of Public Health:MHP)です。このコースの内容を踏襲し、1年間という短期間でヘルスケア関連領域に従事する社会人にとって必要となる多様なリテラシーを身につけていただくことを目的としています。

具体的には、前半6ヵ月間は京都に滞在していただき、京都大学ならびに京都大学病院にて120時間以上の各種講義・実習、および病院見学などのプログラムを提供します。そして、後半6ヵ月間は、京都大学のスタッフが東京に赴き、合計10回前後のフォローアップセミナーを開催。最後に修了証を交付する構想です。

今後、説明会なども適宜開催させていただきますので、ご希望の方は御連絡いただければと思います。ご静聴ありがとうございました。