「人」に関する情報をすべてつなぎ合わせる

私たちはいま「サイバニクス」という分野の開拓をしていています。これは脳・神経科学、行動科学、ロボット工学、IT技術、システム総合技術、生理学、心理学などを融合複合した新しい研究領域です。

これまで科学技術は領域の細分化によって発展してきたといってもいいかもしれません。半面、各技術分野は高度化しながら、社会、とくに医療の分野が持っている複合課題が、実は解けないような状況に追い込まれているのです。この状況を打破するためには、「人」というものを中心として、その情報空間と物理空間の全てが扱えるような領域改革が不可欠であり、その試みの一つが「サイバニクス」なのです。

私たちの研究センターは文部科学省がもっとも強化する教育研究拠点にもなっていています。ここで博士号をとった多くの研究者が、さらなるチャレンジをする場として「CYBERDYNE」という企業を設立しました。私たちが目指す新たな医療分野の開拓には、人に関わる自然科学の領域がすべてつながる必要があります。困難なこともたくさんありますが、若い人たちと一緒に挑戦していきたいと思います。

人体に関わる情報を統合化していく

医療の革新のために重要なことは、人の体から今まで以上に多くの情報を得て、それをさまざまな階層で統合化いていくことです。2016年にG7が日本で開かれ、様々な知識や情報の共有で今までにない新しい価値を生み出す「ソサエティー5.0」という戦略が示されました。その議論で行われた重要なポイントの一つは、やはり「グローバルヘルス」です。今年、大阪で開催されたG20ではデジタル産業について議論されましたが、そこでも医療情報というものが重要なテーマとなりました。

 

こうしたなか、いま私たちが挑戦していることの一つは、人の体の外からはほとんど見えてこない情報を患者の負担の少ない方法で簡単に取り出し、それを日常の医療や健康管理に使えるところまで持っていきたいということです。

 

脳神経系にかかわる情報などを巧みに取り出してこられる「バイタルセンシング技術」もその一つです。患者から得られたこれらの情報をきちんとコンピュータで分析することで、医療従事者がよりよい診断、治療を行う手助けにすることができるでしょう。さらに、神経と神経、神経と筋肉を繋ぐシナプス結合を調整する技術を、近い将来、治療技術として確立させていきたいとも考えています。

 

今後は、工学系の技術と創薬、あるいは工学系の技術と再生医療、これらが融合することで、もう一つ別の段階でのチャレンジが始まると期待しています。そのために、とにかく重要なのは「知ること」です。人に関わるさまざまな情報を集めそこから新たな「知識」を生み出すことが重要なのです。そのためには、技術的な取り組みだけでなく、社会的な取り組みを同時展開していくことが重要だといえます。