服の上から心電図などさまざまな情報を得る

 

身体が発信する膨大な情報をできるだけ簡単な方法で得る。それもサイバニクスの技術の一つです。例えば、これまで心電図や脳波を得るときには、胸や頭皮に電極を貼り付けるのが一般的でした。しかし、私たちが開発した新しい技術を使うと服の上、髪の毛の上から心電図、脳波を計測することもできます。この技術をベースにすると、例えば寝るときにパジャマのように着るだけで、睡眠中の体の情報を得られるというようなことが可能になります。

 

また脳から得られる情報には、脳波以外にも脳の血流があります。これまで脳の血流量を測定するためには大がかりかつ高価な装置が必要でしたが、私たちは血流量と脳波の情報の両方をキャッチするためのセンサーチップを新たに半導体から設計し、それを使って脳の信号を捉えるためのモジュールを作成しました。

 

これも将来は、医療のさまざまな問題を解決するための基盤技術になるでしょう。例えば、重度のALSの患者さんで、全く体を動かせない状態でも、このモジュールを使うことでナースコールをしたり、文字を入力したり、電気のオン・オフをしたり、あるいはテレビのチャンネルを変えることのできるインターフェースを作りました。

従来も同じ目的で使われる装置がありましたが、針電極が必要で患者の負担が大きいものでしたが、私たちのインターフェースは頭に貼り付けるだけです。  

現在は福祉医学研究用モデルとして出荷できるようになりましたが、これを医療機器として承認を受けられるようになるまでは長い道のりがあります。それが少しでも短縮できるようになればと思います。

HALの技術を患者の機能改善に応用する

 

私たちの最新の研究の一部を紹介させていただきましたが、その基盤技術の一部を取り出して作られたのが、広く一般にも知られるようになってきたHALで、歩行障害のある方のリハビリや介護や農業などの重労働を軽減するために使われる装着型サイボーグです。このHALの技術を用いて研究でも新たな進展があります。

 

HALでは、脳から発信された体を動かしなさいという信号が脊髄、運動神経を経て動力装置に伝わり動くわけです。しかし、脊髄損傷の多くの患者さんは、最初、身体がほとんど動かないのです。ただ、全く動かない状況でも、HALを装着しほんの少し信号がとれれば動力装置を動かすことができます。そこで、私たちは患者に足を動かそうとしないで、意思だけで動かすように努力してもらいました。そして、それを繰り返しているうちに、あるとき動かなかった足が、自らの意思で動くのを感じるようになることが分かったのです。

 

そのメカニズムは脳神経系と筋骨格系の情報をいったん取り出して、人とHALという装着型サイボーグとの間でグルグルと機能改善のループを作り出し、それで機能改善させていくというものです。完全脊髄損傷の患者さんで、12年間、全く足が動かなかった例でも著明な回復が見られたケースもありました。また、小さな装置を作り小児の臨床試験も経験しましたが、はじめて自分で足を動かす感触を得たときに、子供の目が少しずつ輝きを増していったのを忘れることができません。

 

医療機関関係者の協力もあって、脊髄損傷に対するこの技術は医療技術として公的医療保険適用されるところまで到達しました。いったん医療機器として認められると、今度は世界に対していろいろな説明がしやすくなるという意味で突破口になったと思います。現在は、さまざまな神経難病の治療や脳卒中後のリハビリに対する臨床研究を進められるまでになりました。