産官学連携で新たな領域を切り拓く

 

このほか私たちの研究グループでは、低電力で効率よく生体の情報を得るためのセンサー・半導体の開発、AI(人工知能)の医療・介護への応用など、さまざまな技術開発に取り組んでいます。難しいのは、私たちが挑戦しているのは長い歴史を持つ創薬ではなく人類社会が手に入れつつある新たなデバイスということです。実際の臨床の場で使われるようになるためには、これまでもたくさんのハードルがありました。

 

例えば、ISO(国際標準化機構)に一昔前まであったロボットのルールをご存じでしょうか。かつてロボットとは産業用ロボットのこと。工場のなかのルールは、ロボットと人は一緒に働いてはいけないということでした。ロボットと人との間には事故を防ぐためのフェンスが設けられていました。これではロボットを医療に応用することはできません。私たちは一定のルールを作り、10年かけて人にロボットを装着できるようにしました。

 

ヨーロッパなどで公的な保険が利用できる医療機器として認められるように申請する作業も大変でした。私は一大学教授でしたので、そういうことの全プロセスをやり抜くってどれほど大変か知らなかったので、なんとかやり抜くことができました。もう1回やれと言われたら、ちょっと生唾をゴクッと飲んでしまいそうな、そういう任務です。今後は、そのノウハウを様々な研究者と共有したいとも考えています。

 

いまHALを筆頭に、少しずつ「サイバニクス」への社会の期待が増しています。これからは企業との連携も厚みを増していくと考えられます。基礎研究、臨床の現場、産業界という3つのグループがグルグル回っていかないと本物のビジネスに育つことはできません。さらに、新たな市場へと育つまで技術開発が持続可能でなければなりません。前例のない医療に対する保険適用、技術料の算定などについては、国のサポートに期待したいところです。

 

人の体から得られる情報には、まだまだ多くの可能性が眠っています。それを生命科学、工学、数理科学の融合で解き明かしていくことで、新たな医療ビジネスが生まれようとしているのです。