高齢の心不全患者が増加
再入院の頻度も高まる

山本先生は、「高齢者の心不全が増加し、しかも再入院が多い」と指摘されていらっしゃいます。高齢者の心不全の現状と課題について教えてください。

山本 心不全の原因には狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患があり、その危険因子には高血圧、糖尿病があります。また、心不全は心筋症、弁膜症、不整脈、先天性心疾患(心奇形)など心臓の形態や機能の異常、さらにはがんに対する化学療法・放射線療法、甲状腺機能亢進症、過度の飲酒、ウイルス感染症、薬物中毒などによっても発生します。

心筋にダメージがあったり、心臓を過剰に働かせるような病気や生活習慣などにより、心臓が全身に血液を送りにくくなると、当初は余計に頑張ってポンプ機能を働かせようとしますが、加齢とともにこうした機能(予備能力)も弱ってきます。高齢者の心不全が増加し、再入院される方々が多いのはこのためです。

心不全の発生や悪化を防ぐためには、虚血性心疾患や心筋症、弁膜症、不整脈、先天性心疾患などの疾患を治療した上で、心臓の働き過ぎを抑えたり血栓ができにくくしたりする薬剤の服用や高血圧、糖尿病の治療、生活習慣の改善に努めることが重要です。

脳梗塞などもそうですが、心不全が再発して入院を繰り返すたびに患者さんのADLやQOLが格段に低下し、本人だけでなく家族の生活にも大きな支障をきたすことになります。心不全を発症した人は処方された薬剤を指示通りに服薬するなど、再発や悪化を防ぐよう心がけることが必要です。

実は、鳥取大学医学部附属病院に入院した心不全患者に対し、専門医、看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士などの多職種により服薬指導や生活習慣改善などの指導をしたところ、心不全の再発による入院が半分近くに減りました。私たちは、このデータを論文にして発表しています。

それは興味深いですね。

山本 しかし、こうした心不全患者への多職種による指導は、現在のところ医療機関への診療報酬には反映されません。患者さんは心不全の悪化が予防できればADLやQOLが保たれますし、家族にとっても介護負担が減り、休職や離職することなく仕事が続けられます。

患者自身にかかる医療費や介護費といった側面だけでなく、家族の労働生産性を考慮すれば社会的なメリットは大きいと思いますので、心不全患者に対する多職種による教育に相応の診療報酬が認められることを期待しています。

意識のないままの延命に疑問
本当に幸せな命のあり方とは

超高齢社会を迎えたいま、心不全患者の高齢化が避けられない状況にあると思いますが、心不全治療のあるべき姿について、山本先生のお考えをお聞かせください。

山本 私たちの世代の心臓を専門とする医師は、「循環器疾患は、患者さんの生命を救うための手段が揃っているのだから、やれることは何でもやれ、良くなるはずだ」という教育を受けており、そうした価値観が根付いています。

しかし、高齢者の低下した心臓の機能を回復させることは非常に困難です。現在では、無理な治療で延命を図るより、末期がん患者に行われている緩和ケアのように、心身の苦痛をコントロールしながら末期心不全と上手に付き合い、その人らしい最期を送るほうが望ましいという考え方がだんだん受け入れられる方向にあります。

末期心不全患者に対する緩和ケアは、今後、考えるべき重要なテーマの1つですね。

山本 人は、誰しもいつか必ず死を迎えます。例えば、寝たきりで意思疎通も図ることができない100歳近くの心不全患者の状態が悪化したとき、救急車で大学病院や基幹病院のCCU(循環器疾患専門の集中治療室)に搬送し、本人の意識もないまま延命を図ることは、本当に本人のためになるのでしょうか。

それより、自宅で心不全の悪化を防ぐ薬剤を服用し、肺に水がたまって苦しくならないよう上半身を起こして過ごすなどの生活指導を受け、呼吸困難があれば在宅酸素、疼痛が堪えがたければモルヒネを使うなど症状緩和に努め、なるべく苦痛なく、その人が永年過ごした自宅で最期を迎える方が幸せなのではないかと考えています。現在、末期がんの緩和ケアにしか認められていないモルヒネの使用を、末期心不全にも認めてもらうことも、今後は必要かもしれません。

心不全が悪化して搬送された患者さんの家族が、「できることは何でもして、少しでも長く生かしてほしい」と望む気持ちはよくわかります。しかし、家族が満足する延命治療が、必ずしも患者本人が望んでいる医療行為ではないことがしばしばあります。末期の心不全の緩和ケアを実践するためには、本人や家族が同じ価値観を共有することが求められます。

第3回終わり(3回連載)