専門領域を行き来できる
カーディアックサイロ

循環器領域の中で、不整脈はどのように位置付けられますか。

青沼 循環器の中には、「不整脈」、心筋梗塞や狭心症、動脈硬化、大動脈瘤という「虚血性心疾患」、心機能の低下によって生じる「心不全」という大きな3つの柱があります。不整脈は心臓の調律が崩れることにより異常が生じるため、極めて重要な分野ですが、残念ながら現在の医学部の臨床教育のシステムでは、この分野を指導する教授はとても少ないのが現状です。

3本柱の1つでありながら、指導教授が少ない理由は何でしょうか。

青沼 基礎の薬理学や生理学など、動物の心臓を使って研究しているグループがある一方で、私たちが取り組んでいる学問は、臨床心臓電気生理学と呼ばれるように臨床に直結しています。日本ではどんな分野においてもベーシックな学問領域がオーソライズされる反面、臨床は誰でもできるといったニュアンスがあるのではないでしょうか。細胞学、遺伝子学をベースにした学問が上位であって、「臨床なんか誰にでもできる」といった見方があることは否めません。こうした状況が、心臓電気生理学の分野においても同様であり、臨床で懸命に治療している先生がポジションに就けないシステムをつくりだしている一因となっているのではないかと思います。

しかし、臨床の中で新しい治療法や診断法の発見が生まれ、治験に結びついてきたのではありませんか。

青沼 その通りです。臨床心臓電気生理学において治療やイノベーションに結び付いたものは、私たちが取り組むカテーテル・アブレーション(心筋焼灼術)治療とデバイス(医療機器)治療です。日本では1970年にペースメーカー、1996年に植え込み型除細動器の使用が可能になったように、世界的な治療のイノベーションが起こったのは1980年以降であり、それ以前の論文が非常に少ないこともあります。

また、日本にはデバイスラグといって、従来では海外で開発された最先端の医療機器が日本で承認され、使用されるまでに生じる時間的な遅れがあり、日本で承認後に研究を行っても、世界からすでに遅れを生じていたため、日本の臨床家の研究論文があまり評価されなかったことも背景にあると思います。

しかし、最近になって、このデバイスラグが徐々に解消されるに至り、日本からの臨床論文の評価も上がってきています。

循環器はいくつかの領域に分かれていても、心臓を治療する意味では連携が重要になってくると思いますが、教育の現場ではいかがでしょうか。

青沼 いまヨーロッパでは「カーディアックサイロ」という考え方が一般的です。例えていうと、中央に大きな広場を設け、そこから不整脈、血管治療、心不全といった各サイロ(専門領域)に進むことができますが、一度、専門領域に進むと戻れないのではなく、若い医師が中央広場から様々な領域へ行き来できる優れたシステムです。日本もこれに習うべきだと思いますが、各サイロ間の良好な交流がなければ、各サイロの機能が向上しないことも重要な問題です。