具体的にはどのような危惧を持たれたのですか。

青沼 自らの経験から、人間は非常に困難な状態に接したことがなければ、真に自分の能力を発揮して伸ばせられないのではないかということです。若い医師の革新を創造するためには、困難に立ち向かった時に力を発揮できない自分の弱さ、懐の狭さを痛感して、自ら学び、困難な症例に立ち向かう強い心を養うことが肝要であると考えています。

自分のテリトリーを超えたときにこそ
集中して考えられる知識と経験が大切

青沼先生は、重篤な患者さんと診られたご経験も多いと思いますが、そうした場面ではどのように向き合っていらっしゃいますか。

青沼 ある患者さんの例をご紹介しましょう。現在は大病院の部長をされているA先生が、研修医として私の下で学んでいた20年以上前のことです。ある患者さんがショックで集中治療室に入院したため、直ちに輸血と昇圧を試みましたが、眼瞼結膜が真っ白で貧血を疑いヘモグロビンを測定したところ、通常12~14g/dlが半分以下の5 g/dlまで減少していた。これは胃を含めた消化管で出血しているに違いないと考え、消化器内科の医師をコールして胃カメラをやってみると、胃から大量に出血していました。

そこで使用していた抗血小板薬を中止し、出血を止める特殊な胃内バルーンゼングスターケンを挿入して、その後、動脈からの出血源に対してクリッピングも行いましたが、2日後にまたショック状態になってしまう。結局、3日間3回連続で消化器内科の医師が治療を行っても、全く改善しませんでした。

そのときに、消化器内科の医師と交わした会話は、「青沼先生、もうこれは助かりません」「他にできることはないのか」「私のできることは何もありません」でした。A先生も「残念です。もう無理ですね」と言いましたが、私はあきらめませんでした。何をやったかというと、まず消化器外科の医師をコールして、そこで患者本人と家族にも確認を取り、動脈から出血している胃の半分を取ることにしたのです。それで出血源を含んだ部分胃切除をすることで出血が止まり、救命できました。

DIC(播種性血管内凝固症候群)のように出血が止まらない病気ではなく、出血しているのは一部のように見えたので、だとすれば出血が深すぎて止められないのではないか。ここで胃を部分切除するだけの価値はあると確信しましたし、同級生の消化器外科の医師にも聞いたところ、やはり部分切除しかないと言ってくれました。

部長となったA先生は今でも、「あのとき青沼先生がいなかったら、患者さんは死んでいました」と感謝してくれますが、どんなに困難な状況であっても、やれることはまだあります。確かに患者さんは胃の半分は無くしましたが、元気になって楽しく生活したり、社会に貢献されています。これは心臓だけ、消化器だけを勉強していてはわからないことです。胃潰瘍大出血、肝硬変の食道からの出血や吐血など、血の海の中で膨大な症例を経験してきた医師だけが、危機的状況に陥った患者さんを前にして、あらゆる可能性を考えていける能力を身につけることができるのです。

もちろん、担当する自分のテリトリーの範囲内で治すことができればベストですが、治せなかったら次はどうするのか。それを考えて決定できるだけの能力や見識、経験を持つことが、臨床医として大きく成長するめに大切なことであると思っています。

第3回終わり(第4回に続く)