それだけきれいな手術ができるのであれば、フェムトセカンドレーザーによる手術を望む患者さんが殺到するのではないでしょうか。

常岡 患者さんは希望するでしょうが、診療報酬の問題があります。眼科医の手技による手術であっても、フェムトセカンドレーザーによる手術でも白内障手術は12100点、つまり12万1000円と決められており、フェムトセカンドレーザーを使用したからといって診療報酬を高く請求することは出来ません。

当院が導入した「カタリスプリシジョンレーザー」の価格は6000万円。また、手術中に患者さんの眼球の動きを固定するLOI(リキッド オプティクス インターフェイス)だけでも5万円します。LOIは角膜を直接圧平しないので眼圧上昇が少なくなるという利点はあるのですが、保険診療でフェムトセカンドレーザーやLOIを使った白内障治療をすると、病院の持ち出し(赤字)になってしまうのです。

白内障手術にフェムトセカンドレーザーを使い、保険診療とすることはできないのでしょうか。

常岡 現在、フェムトセカンドレーザーを使った治療は自由診療であり、片眼だけで30~50万円かかります。また、多焦点眼内レンズを挿入する場合は、「高度先進医療」としてフェムトセカンドレーザーを使っていますが、高度先進医療でも厚生労働大臣が定める医療施設で行われる場合しか対象になりません。
そこで当院では、臨床研究としてフェムトセカンドレーザーによる白内障手術を行っています。臨床研究は患者さんにご協力頂き、病気の原因の解明、病気の予防・診断・治療の改善、患者さんの生活の質の向上などのために行う医学研究です。

今後、フェムトセカンドレーザーによる白内障手術を普及させるためには、この機器のアドバンテージやメリットを訴求して、導入施設を徐々に増加させることが必要です。導入施設が増えれば、機器そのものの単価も下がります。6000万円の機器が3000万円まで値下がりすれば、採算も合うようになります。

普及の障害になっているのは価格だけでしょうか。フェムトセカンドレーザーに対する医師からの抵抗はないのでしょうか。

常岡 当院においても導入するまでは、「そんな高価なものを買う必要があるのか」という意見と、「人の手で行う手技と機器でそんなに差があるのか」という意見がありました。しかし、導入後の実績を見ると明らかに差があります。また、術者のスキルに依存することなく、常に一定レベル以上の手術が可能になり、患者さんの満足度も高くなります。

現在、国内では30台弱のフェムトセカンドレーザーが稼働していますが、これらの医療機関で数多くの症例を積み重ねることで、技術がさらに進歩していくと思います。従来の手術法では難症例と言われている「過熟白内障」、「チン小帯脆弱例」、「外傷性白内障」などの症例に対して、フェムトセカンドレーザーが安全性を高め有用であることが立証されれば、患者さんへのメリットはさらに高まります。

最後に、常岡先生が日常診療において、白内障患者への対応で気を付けられていることはありますか。

常岡 手術も大切ですが、医療者が注意しないといけないのは、患者さんがどんな「視生活」を求めているのかを理解することです。たとえば眼内レンズも単焦点よりも多焦点のものの方が遠近両方見えて便利なのですが、患者さんによっては術後に「くっきりと良く見えない」といった不満を漏らす方もいます。レンズの特徴を理解してもらった上で、レンズの選択をしてもらっています。

その患者さんがこれまでどういう見え方をしてきたか、これからどんな見え方を望んでいるのかということを知った上で治療をすることが最も大切だと思います。手術機器がいくら進歩しても、カウンセリングを疎かにしていては患者さんの満足度を高める医療はできないのです。