世界ではあまり行われていないオフポンプによるバイパス手術が、なぜ日本ではこれほど多く行われるようになったのですか。

新浪 日本は、これまで先進国の中でも最も多くポンプを使ったバイパス手術を行ってきました。しかし、これは良い意味では循環器内科の先生に育てられた、悪い意味ではオフポンプという手術をさせられてきたといえます。

日本におけるバイパス手術とPCIの比率は1対13程度だと思っていたところ、東邦大学医療センター大橋病院循環器内科教授の中村正人先生から1対23と聞いて驚きました(実際はPCIの統計がはっきりしていません)が、こうした状況の中で、私たち心臓外科医がなんとか手術をしていくためには、オフポンプによるバイパス術をせざるを得なかったのです。

これは後の話につながっていきますが、これまではオフポンプのバイパス術ができる内科医は上手な医師で、患者を送ったときに自分たちがPCIでうまくいかなかった、あるいはPCIで広げられなかった患者を治してくれたという流れがありました。そこで、一施設の手術症例が非常に少ない日本では、手術数を確保するために切削琢磨しながらオフポンプのバイパス術をやるようになっていった。一方、イギリスの比率は1対3ですが、こうした国々で難しい手術をする理由がなく、欧米では日本ほどオフポンプが発達しませんでした。

さらには私たち外科医に治療を委ねられる患者は様々な合併症を持っていることが多く、このことも人工心肺を使用した手術が行いにくい状況になっています。

日本特有の状況の中で、結果的にオフポンプ術の習熟度が上がってきたと思いますが、新浪先生はこの手法についてどのようにお考えですか。

新浪 非常に良い手術だと思います。なぜなら高齢者のほか、糖尿病や透析等から様々な合併症を抱える患者に対して、人工心肺を使用することは脳、腎臓や肺などの多臓器への負担等、極めて高いリスクを伴います。私自身は年に数例を除き、98%は人工心肺を使わずに執刀していますが、そうなると難しい患者さんにもルーティンとしてできるようになります。

「オケージョナル・オフポンプ・サージャリー(時々オフポンプで手術を行うこと)ではハイリスクな患者に対して安全に執刀することはできない」。これは、私がシンポジウムなどで若い医師たちによく言うことですが、日頃からオフポンプ術に精通していなければ、厳しい状態の患者に対して手術はできません。日本のバイパス手術の成績は欧米に比べて非常に優れているのは、少ない症例でも懸命に技術を磨き、オフポンプのバイパス術を行ってきたからです。

日本人が持っている真面目さや器用な面も、手術成績を高めることにつながっていますか。

新浪 加えて、日本は循環器内科医が多く、その“目”があります。要するにごまかしが利かない。前述したように、冠動脈バイパス手術は内科医も同じ治療法、つまりPCIをツールとして持っているので、数ある外科病院のどこに送るかを考えたとき、自分たちがPCIをやるよりも優れたバイパス術ができる外科があるなら、そこに送ろうとなります。良いバイパス術をしているかどうかは、手術後の造影検査ですぐにわかります。そうした厳しい第三者の目の中でやってこなければならなかったことが、日本のバイパス手術の技術を高めてきた。まさに日本モノづくりと同じです。

私自身、何度執刀しても、もう少しうまくできたのではないかと感じることはありますが、それでも毎回ベストを尽くしたと自負しています。循環器内科医は外科に送るだけでなく、そこをもっと評価していただきたいと思いますね。