留学中で200例以上を執刀
できる人間だけが生き残る

新浪博士氏

新浪先生が手技を磨かれたのは海外ですか。

新浪 テクニカルに関してはオーストラリアです。東京女子医科大学心研循環器外科の助手時代にメルボルンに1年、シドニーに2年派遣され、メルボルンでは主に心臓と肺の移植の勉強を、シドニーでは2年間で200例以上を執刀しました。

オーストラリアでは数多くの手術の助手をさせてもらい、システムに慣れて信頼を得るようになると手術を任せてくれます。その数は日本の10倍以上にもなりました。海外では基本的に悪平等という発想はありません。できる人間にやらせる。私は同期と比べて数倍やらせてもらえましたが、その差は明確で、極端な話ですが欧米社会ではできない人を切り捨て、生き残った人間だけが一流になれると感じました。

手術数以外に、日本との違いはありますか。

新浪 心臓外科医の数です。当時、オーストラリアでは心臓外科として独立している人たちのことをコンサルタントと呼んでいました。私が留学していた頃、このコンサルタントと呼ばれる心臓外科医の数は全豪で70~80人程度、現在でも100人に満たないはずです。イギリスでさえ200人程度ですが、日本には2000人いるといわれています。広大な国土を持つオーストラリアの人口は日本の1/7程度ですから、いかに日本の心臓外科医の数が多いかがわかると思います。

日本には心臓外科のある施設が500ほどあり、そのうち年間症例数で最も多いのが100~150前後です。それを部長や副部長、研修生も入れて4~5人で、この手術数を回しています。チーフになれば当然、執刀したいから一人で50~60を手がけ、残りをみんなで分けているのが実情です。日本で年間100例以上を執刀している心臓外科医は、恐らく100人もいないでしょう。

心臓外科医として、年間どれくらいの手術をするべきだとお考えですか。

新浪 その当時、心臓外科医が自分の腕を維持していくための最低限の執刀数(ミニマムナンバー)は、年間200例だと言われていました。私はそれがとても頭に残っていて、一人前の心臓外科医になったら、常にそのくらいの数はやろうと決めたことを覚えています。今は自分の腕をメインテインする数を超えた場合は、若手の育成のためにも下に任せるようにしています。

数として200例はミニマムナンバーですから、やはり300例は必要です。天野先生は年間400例をされていますし、私もやろうと思えばできないことはありません。しかし、以前に天野先生とも話したのですが、400例にもなると患者さんの顔が全くわからなくなり、完全にベルトコンベアになってしまいます。200例が最小で、400例はちょっと多い。そこで、最適な数として300例と考えています。

欧米では手術症例が多く、例えば年間4000例の手術をしているドイツのバード・ユーンハウゼンにある心臓センターのチーフは私より1歳下ですが、彼は一人で年間500~600例は執刀していています。4000例のチーフともなれば、どこにどんな患者がいるかは知りません。スタッフサージェンが20人程いるので回していけますが、それでも600例はやりすぎだと思います。

第1回終わり(第2回に続く)