同じ専門医であっても、手術数の多い医師と少ない医師では、やはりスキルに差が出てきますね。

新浪 よく言われるのが、日本の手術成績は欧米に比べると優れているから今のままで良いという理屈です。例えば、大動脈弁置換術の手術死亡率はアメリカ2.5%、日本2%ですが、当センターでは1%を割っています。どこかと比較してではなく、日本人はより高いレベルの医療を目指していくべきです。施設を集約し、専門医を少なくすれば専門医の手術数が増え、欧米先進国よりもさらに手術成績は向上するはずです。

加えて、今後も医療費が何兆円と上積みされることを考えれば、病院の集約化も必要です。手術が少ない病院は手術数の多い病院と比較すると、合併症を起こす率が高くなり輸血率や輸血の数も増える傾向にあります。しかし医療費はこういった合併症にかかるコストにも支払われ、同じ手術をしても患者にかかる単価が平均すると高くなるわけです。これをカバーしているのは各病院ではなく健康保険です。例えば当センターの手術数は600例、自治医科大学附属さいたま医療センターで400例ですが、これをそれぞれ1000例まで上げていくことで、医療費は減らせるでしょう。問題のある施設や手術数の少ない施設を集約化することは、必ず医療費削減につながります。こうしたことも各県に任せるのではなく、国レベルで考えるべき問題です。

アクセスの整備と地域病院との連携で
大病院の集約化を図る

病院の集約化というと、近くに大病院がなければ困るという議論になりがちです。

新浪 日本人は徒歩圏内に大病院がなければいけないと思っていますが、私が留学していたシドニーを州都としたニューサウスウエルズ州では、日本の国土と同じ広さに心臓手術を行う施設がわずか10軒程度しかありませんでした。

さらに、これに関連して興味深いデータがあります。当センターでは年間100人の解離性大動脈瘤の患者を診ていますが、近くの病院が空いていないという理由で群馬県などからも来院します。15分で着く近くの病院ではなく、1時間半もかかる当センターに来るのは、実際の執刀においては24時間体制で受け入れているうちの方が早いからです。解離性大動脈瘤のような疾患は、小さな病院では10例ほどしか手がけていない上、外科医や看護師、麻酔科医が毎日当直しているとは限らないため、彼らを呼んで輸血を準備していたのでは間に合いません。これは、遠くの病院への交通アクセスを整備すれば解決できる問題です。

ただ、循環器内科だけはなるべく近くにあった方が良いと思います。特に、心筋梗塞は救急に到着してから手術するまで20分といわれているようにスピードが求められますが、心臓外科領域では、近くの病院と提携できていれば十分対応できます。当センターでは、いつ緊急連絡があっても対応できるよう、当直者に外線直通のPHSを持たせています。

難しい疾患や夜間対応ができない心臓外科が増えたのはなぜですか。

新浪 心臓外科をそうさせてしまったのは大学病院かもしれません。誰しも手術数が多い病院の方が良いと思っていますが、実際には手術数100例前後の大学病院も多数あります。例えば150例以上の病院だけ残すとなると潰れるところも出てくるでしょうから、その病院にいる人たちは自分の立場を守ることで必死になり、何も変わりません。

資本主義社会である限り、基本的に人間はインセンティブがなければ動かない。私自身は父親の背中を見てきたので、お金より仕事で手応えを感じることに重点を置いていますが、若い人に同じことを求めても無理で、働いたら働いたなりのインセンティブが必要です。心臓外科医2000人のうち、500番から2000番にいる人たちにとっては専門医制度で守られているから良いかもしれませんが、トップから500番までにいる人たちからすれば、治療実績も少なく、技術を磨くこともしない人たちとなぜ同じなのかと思うでしょう。これからの若い人たちのことを考えれば、欧米先進国と同じレベルが求められる時期が来ていると思います。

繰り返しになりますが、今一度、専門医の意味を問い直す必要があります。専門医を持っていることで何ができるのか。もはや「隣の人が持っているから自分も持っていたい」では通用しません。先日も、ある会で外科医10人が集まって専門医の話題になったとき、「結局、保険医療制度と絡まない限り、何をやっても一緒だ」という医師がいました。本当にその通りで、一体誰にプラスになるのか、どうやって縛るのか。ポイントはそこです。