医療データを本格的に活用するためには、医学や薬学の専門性だけでは事足りないことも多いだろう。様々な専門力を所有する者同士が一緒に研究することで得られる成果は計り知れない。もちろん、一個人で多くのスキル(技術)を所有しているという方も中にはいらっしゃるのだろうが、一般的に1つの専門性を獲得するには相応の時間が必要であり、人生はそれほど長くもない。自身の不足している専門性を適切に把握し、その不足を補うために適切な専門家と手を組める人こそ、現代における研究者の一人前像といえるのではないだろうか。

リテラシー(literacy)という言葉を最近よく耳にするようになった。元々は「読み書きの能力」らしいが、現代版解釈からすると「シロウトではなく、ある程度の知識がある」ニュアンスであろうか。自身と異なる専門家との共同研究においては、相手の専門分野におけるリテラシーを双方で所有しているかどうかが重要となろう。ご自身がたとえ当該疾患領域の医学専門家であったとしても、情報工学や疫学を全く知らない、というのでは一体、誰と協業すべきか、その人選がまずおぼつかない。肩書きや経歴から推察するより仕方なく、その人選が適切かどうかははなはだ怪しい。

海外ご出身で医局の情報システム部長をされた方が、「私の国では情報システム部長は情報システムの専門家だが、日本はそうとは限らない」とお話されていたことがある(私はむしろ、なるほど肩書きと専門性が一致している国があるのかと驚いた)。こうした日本のお国事情がさらに人選を難しくさせるかもしれない。

また、異なる専門領域のリテラシー所有効果はそれだけではない。各々の専門家のモチベーションが格段に上がるはずだ。人は表面的に「ほめられる」ことが嬉しいわけでなく、能力や技術を最大限発揮した箇所に気づいてもらい「ほめられる」からこそ嬉しいはずだ。むしろ、気づいてもらえる、その確信だけで良い。高い専門力に裏付けられた創意工夫の勘所に気づけるためにも、互いをリスペクトしあうためにも、異なる分野の基礎的な知識、リテラシーを所有しておきたいところである。

さて、今回は医療データの活用に求められる主だったスキルを整理してみよう。ご自身が未達の専門性がどの分野なのか。それを満たすためのリテラシー向上のきっかけづくりや、アレンジすべき専門家探しのヒントにしていただけたら幸いである。

当該領域の専門性

医療データを活用したい研究テーマが医学ならば医学の、薬学ならば薬学の専門力は当然必要不可欠だ。医療経済学分野の研究なら医療経済学、社会心理学ならば社会心理学の専門力。ただし、スキル要求確保、人材確保という視点でいうならば、当該領域の専門性の不足が問題となることはあまりないだろう。なぜならば研究したいテーマの選択は大抵、ご自身が専門とされる領域の研究テーマであることが想定されるからだ。

医師が知りたいのは、やはりご自身の疾患専門領域に関することが主だろうし、製薬企業の社員であれば、自身が最も詳しい薬剤や当該領域に関したテーマであろう。また、仮にその専門力に未熟や不安感があったとしても、周囲の先輩や友人関係からその専門性の不足を補える可能性が高い。ただし、研究の主体が行政であって、例えば「透析治療の経済的妥当性」を知りたいならば、「当該領域の専門性」不足は否めない。腎臓領域の医師、医療経済学者、社会学者、あるいは患者さん(患者さんは実際の治療経験者という側面において当該領域の専門家に他ならない)にも協力していただくことで、こうした当該領域の専門性を補う必要があろう。