品質保証のゴールはどこ?

果たして今、コンピュータは便利な物であると言い切れるだろうか。PCが登場した当初、手計算では困難な集計や、データを便利に並べ替えたりグラフにしたりといった「労苦」を、事もなげに実現させるその様は、ある種の感動さえ覚えたものである。だがしかし、である。

CSV(Computerized System Validation)の勘所を簡単にいえば、「そのコンピュータシステムを使った処理が正しく行われている(行われていた)ことをどのように第三者に証明するか」であり、この実現は案外と難しい。また、昨今では一連の業務遂行に関してコンピュータシステムを使う、使わないにかかわらず、品質マネジメントシステム(QMS、Quality Management System)という捉え方が浸透しつつある。

こうした欧米由来の概念の“舶来品”の特徴は、成果物のみならずプロセス保証に対する要求といえよう。日本古来の文化慣習では成果物に万が一、不備・不具合が発生した場合、どのような謝罪の仕方をするかといった情感的なところに目が向きがちなところがある。しかしながら、グローバルビジネスを進める上ではより合理的に、なぜそのミスが生じたのか、今後はどのようにして防ぐのかを具体策をもって提示することが求められる。

こうしたQMSの考えに紐づく“CAPA(キャパ)”と呼称される、Corrective Action & Preventive Action(是正措置と予防措置)の要求は、実際に成果物には問題が生じていない場合であっても、「今のままでは問題が発生する可能性があるから」といった理由で、“ダメ出し”されることさえもある。さらに、昨年であれば問題なしとされたプロセスが今年は不合格とされるなど、要求はエスカレートするばかりで、CSVへの要求も然りである。

実際に、行き過ぎたCSV要求は、業務の効率性に”弊害”をもたらすこともある。例えば、電子カルテシステムに機能を付与すれば、観察研究の症例票や副作用報告を半自動的に出力することは物理的には可能であり、入力作業の負担も減り記入ミスも起きないので便利だとは思うのだが、その機能追加に伴い発生するCSV要求への対応負担を思うと腰が引けてしまう。その作業こそ「労苦」に他ならないからだ。もはやコンピュータは便利だ、と一概に言えなってしまったのである。

こうしたCSVに対する必要以上の厳しい要求が、医療データ活用を阻害している気がしてならない。医療の現場や疾患レジストリデータを所有する専門学会が、簡単にはCSV要求を満たせるとは思えないからだ。無論、CSVの考え方そのものは正しく、データの品質担保は極めて重要だ。まずは自身や自組織がCSVとどう向き合い、医療データの品質とは一体、何なのかについて、規制要件云々の前にその答えを見つけ出すことが肝要だろう。今回はCSVの周辺状況を概観しながら、あるべきCSVとは何なのか考えてみたい。

CSV対応の対象となるもの

導入するシステムが正しく動くかどうかについては、規制要件の如何にかかわらず重大な関心事だ。「システム」と一括りにしているが、簡便なアプリやソフトウェアから、電子カルテシステムのような大げさなものまである。また、肺画像の映写や心電図情報といった医療データを“生み出す”システムの中にはハードウェアと一体型のものもある。

こうした類には規制上「医療機器」に分類されるものもある(案外とその線引きはクリアではない)。医療機器ということになればその動作保証は、CSVよりむしろ「医療機器バリデーション」と呼称した方がしっくりくるかもしれないが、これも規制要件が違うCSVの一種といえよう。

このような「システム」の導入に際し、我々が消費者として家電量販店でPCやスマホを購入するように、何らカスタマイズをせずに購入するということであれば、「正しく動作するかどうか」の心配は限定的である。なぜならば、既に他のユーザに使用経験があるはずで、然るに初期的な不具合は解消済みであろうと思えるからだ。一方、自身や自組織の都合で便利機能をいくつも搭載したり、一部の機能を修正したりといった場合は動作保証の心配が増えることになる。

さらに当該システムにより得られる成果物の利用について、何らかの規制要件がある場合-その医療システムから得られる医療データを製薬企業の薬事申請等に使う等-要件に合致するためのCSV対応が必要となる。