RWE(Real World Evidence)

昨年のイグ・ノーベル医学賞(※)はチーズに対する嫌悪感の研究が受賞したのだが、この研究によると、最大のチーズ消費国の1つであるフランスでもチーズ嫌いの人が少なからずいるらしい。実を言うと私もチーズは得意ではない。

誰にだって苦手があるように、医療データの2次利用にも得意としないものがある。今年5月に「RWEについて」というテーマでの講演オファーがあり、さて困ったなと思ったものである。私はこのコラムを連載しているように、医療データの活用には極めてポジティブではあるのだが、データを“目的外”で利用するのであるから、あまり高い期待を寄せるのではなく、あくまで治療状況を概観したり、本格的な研究を行うかどうかの予備調査として利用したりというのが本来的だと思っている。別の目的で集めたデータを使ってEvidence(証拠)創出レベルの研究成果を手軽に得ようというのは、少々おこがましい話ではないだろうか‥‥。そんな思いから、講演のタイトルを敢えて「RWDはRWEが苦手」とさせていただいた。

さて、品質をテーマに前々回は「箱」を、前回は「中身」を取り上げたので、もはや語るものは何もないと言いたいところではあるのだが、今回は別の視点から品質問題を取り上げる。平たく言えば、保険請求で用いられる病名「レセプト病名」は果たしてどの程度、本当の病名と一致しているのだろうかというところの「データの品質」問題である。これは前回同様、「中身」の問題の類ではあるのだが、少なくともCDM上の課題となる入力ミスとは本質的に異なる。

只今、RWD(Real World Data)をスクリーニング的な利用のみならず、Evidenceの創出、ひいては医薬品の承認申請にも直接利用しようという期待が国際的にも高まりつつある。どうにかして苦手科目であるRWEをRWDから導き出すことは出来ないだろうかと考えたとき、今回の「レセプト病名の信ぴょう性」の課題は避けて通れない。どのようにして乗り越えるべきか、その対策についても併せて考えてみたい。

イグ・ノーベル賞
1991年に創設された「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して与えられるノーベル賞のパロディー(2018.9.9. ウィキペディアより)。2017年の医学賞は「The Neural Bases of Disgust for Cheese:An fMRI Study」が受賞。

「レセプト病名の信ぴょう性」問題とは

レセプト(保険請求)に入力される病名の信ぴょう性を“問題”として取り上げることについては、医療現場の方は心穏やかではないかもしれない。事情を知らない人にしてみたら、「正しい病名をちゃんと入力すれば済む問題でしょ」となるかもしれないが、それが出来ない医療現場の人たちは「何もわかっていないな」と憤慨するか、あるいは「そうなのだけど‥‥」と言葉を濁して少々、後ろめたい気持ちになるかもしれない。

第4回のコラムでも触れたが、コンビニのレジ係が顧客を見て性別と年代を記入したとしても、98円の商品を3個買ったという情報と比べたら、この「性別」「年代」情報の信ぴょう性は見劣りがするはずだ。なぜならばレシート上に記載される「98円」「3個」という数字は、それが間違えていたらレジ係の死活問題であるが、一方で性別や年代は付帯情報でしかなく、仮に間違いが生じても、少なくともレジ係の死活問題にはなりそうもない。

レセプト病名の信ぴょう性問題とは、要するにAという医薬品が1日2錠、14日分処方されたという、「A薬」「1日2錠」「14日分」といったデータと比べたら、「病名」に記載される「胃炎」「カルシウム欠乏症」「統合失調症」などは、果たしてそれが本当に発症している病気なのかどうかは、信ぴょう性の面で見劣りがするという、そういう話だ。(医療者でない私がこれ以上多くを語るのは遠慮しておこう)。