有病率(prevalence)

簡単にいえば、「その病気を持っている(罹患している)人の割合」が有病率である。100人中20人が胃がんに罹患していれば胃がんの有病率は20%であり、要するに自家用車を所有している人や持ち家の人と同じ計算の仕方である。解釈をする上で気をつけなければならないのは、死亡リスクの高い疾病の場合には、長期間その疾病と“共生”することができないため、仮に発生率が同じような疾病であっても、有病率はかなり小さな値となってしまう点である。

例えば、「自殺」などは「有病する」こと自体が不可能であり、有病率は常に0%である。そこまで極端ではなくとも、例えばある観察集団の中で、同じ発生率の膵がんと胃がんをある1時点の有病率で比較した場合、より“共生”が困難である膵がんの方が極端に小さな値となる。

ところで、「率」という表現を嫌う研究者もいるので注意しておきたい。本来的には「率」には速度の概念が含まれている必要があるからというのがその理由である。言葉は時代とともにその意味が変化するものであって、投票率や内閣支持率のように速度の概念がなくても、「率」を呼称する言葉もたくさんある。あまり気にすることでもないとは思うのだが、疫学分野に詳しい人と話をする際には有病率ではなく有病割合、発生率ではなく発生割合と表現しておいた方が無難だろう。

リスク比とオッズ比

前回のコラムでとりあげた研究デザインの中には、評価指標とセットのものがある。例えば、横断研究では前述した有病率が主たる指標となる。コホート研究であればリスク比もオッズ比も求めることは可能であるが、ケースコントロール研究ではリスク比を求めることができないため主たる指標はオッズ比となる。

  白血球減少(人) 発生なし(人)
治療A 50 50
治療B 20 80

リスク比もオッズ比も計算自体は簡単だ。コホート研究の結果、表のように50+50+20+80=200(人)の情報が得られたとしよう。治療Aでの白血球減少は50÷(50+50)=50%、治療Bでは20÷(20+80)=20%、そして「治療Bを基準とした治療Aの白血球減少のリスク比」は50%÷20%=2.5倍と算出される。治療Aの方が、2.5倍の白血球減少リスクがあるというわけだ。

一方、オッズ比の計算については、「イベント有」「イベント無」それぞれにおけるオッズをまず求める。オッズとは関心のある群(ここでは治療Aとしよう)と比較群(治療B)との比のことであり、「イベント有」は50人:20人、「イベント無」は50人:80人となる。算術は「:(コロン)」の左側の数字を、右側の数字で割り算する(「イベント有」では50÷20=2.5、「イベント無」では50÷80=0.625)。その上で「イベント有」でのオッズを「イベント無」でのオッズで割り算する。2.5÷0.625=4.0。“比の比”とでも言おうか。よく「オッズ比はリスク比の代用品」として紹介されるが、このくらいの少人数の場合だとリスク比2.5、オッズ比4.0と、案外と大きな違いが生じてしまうことがある。

リスク差

リスク差という指標も、コホート研究のようにリスク比が求められる状況であれば算出可能である。先の例でいえば50%-20%=30%。単なる引き算だと侮るなかれ、リスク比とは違った利点がある。例えば疾病の発生率が50%と20%ではなく、もっと小さな発生率、0.005%と0.002%の場合を考えてみよう。

リスク比は0.005%÷0.002%=2.5(倍)と変わらないが、リスク差となると30%とは違い、0.005%-0.002%=0.003%とかなり小さい。さて、数字がもたらす印象はどうだろう。具体的な例として、放射能漏れによる甲状腺がんリスクを知りたいという社会的要求があったとしよう。標準的な甲状腺がんの発生が、10万人中2人、対して放射線漏れのリスクがある地域においては10万人中5人であった場合、「放射能漏れが懸念される地域での甲状腺がんのリスク比が2.5倍であることが判明」という記事を読んだ印象と、「放射能漏れが懸念される地域での甲状腺がんのリスクは0.003%増えた」と表現したときの印象は随分と違うのではないだろうか。

マスメディアがより大げさな方の指標を好むだろうことはさておき、リスク差の方が正しくリスクを認知できる場合がある。なお、リスク比は相対危険度、リスク差は寄与危険度あるいは相対リスク減少率ともいう。