NNT(治療必要数、number to treat)

リスク差の逆数のことをNNT、または状況によってNNH(number to harm)という。前述した甲状腺がんの例でいえば、1÷0.003%=33,333(人)のことだ。これは「放射能漏れにより33,333人に1人の割合で甲状腺癌の害(harm)を増大させる」という解釈となり、NNHである。この放射能曝露は人類にとって害(harm)なのでNNHと呼称するが、ワクチンによる治療(treat)の曝露はNNTである。

例えば、何ら予防措置をしなければ10万人中500人が子宮頸がんを発症してしまうが、10万人全員にワクチン接種をすれば子宮頸がんの発症を10万人中200人に抑えることができるといった場合、1人を救うためには333人(1÷0.3%)がワクチンを接種しなければならないという解釈となる。これはまた医療経済的には、ワクチンを接種しても残りの332人分は費用と手間が無駄という解釈にもなる。

ハザード比

前述した「発生率」の指標は、累積発生率よりも投与期間の違いをフェアに評価するものの、「期間中、常にリスクは一定」が前提となっている。つまり、病気の発生や医薬品の投与開始を起点として、いつ頃にイベント発生のリスクが増大するかという指標としては相応しくない。

骨粗鬆症における骨折のような場合では問題にはならないかもしれないが、これが「死亡」となれば話は別で、1年後の死亡と5年後の死亡ではまるで意味が違ってくる。死亡だけでなく、初回投与のショック様症状や、投与後期に発生する色素沈着等も投薬中、常にリスクが一定という前提には無理があるだろう。

このような場合は、刻一刻とそのリスク度が変化するため固定した指標を使うことができず、時系列的にその危険度(ハザード)を曲線で描写するアプローチがとられる。恐らく、ショック様症状は右肩下がり、色素沈着は右肩上がりとなるだろう。また、その応用系として2つの比較したい治療間での評価には前述したリスク比やオッズ比ではなく、ハザード比(Hazard ratio)が利用できる。「ハザード比1.5」という情報に出くわしたならばハザードの時系列的な変化がどうあれ、2つの治療間におけるイベント発生は常に一方が他方の1.5倍のリスクであるという解釈となる。

ハザード比、リスク比、オッズ比はそれぞれHR、RR、ORという略号がしばしば用いられるが、これらは全て2つの治療間における相対的な危険性を示す指標ということから区別せずに、RR(Relative Risk)と表記する慣習の学会もあるようだ。具体的にどの指標を用いているのかが学会での発表ではハッキリとわからないこともあるので注意する必要がある。

適切な指標を選ぶ

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今回とりあげた評価指標は、その計算式自体、決して難しいものではないのだが、それが指し示すものが何なのかをよく理解した上で使いたい。残念なことであるが、こうした指標を理解しようともせずに算出可能な客観指標を何種類も算出し、自分にとって最も好都合な結果となった指標を後付けで採用するという不届き者もごく少数ながらいるようだ。不適切な客観指標の使い方は、圧力をかけて主観判定に影響を及ぼす「奈良判定」と同罪か、むしろ科学的に見せかけている分、より巧妙で、より重罪と言えるかもしれない。