RWD特有の課題

臨床試験のような介入研究(=“非”RWDの研究)と比較すると、観察研究には特有の様々な“落とし穴”がある。例えば情報の欠落など当たり前のことであり、これが偶然の産物、無作為的なことであるならばあまり気にしなくても良かったりもするのだが、例えば女性ばかり年齢と体重が不明なんていうことだとすると、欠落していない値だけで平均年齢や平均体重を求めるのは集団を代表しなくなってしまう(医療系のデータでは作り話かもしれないが、社会系調査データであれば女性ばかりが年齢不詳、体重不詳となるのはリアルだろう)。

あるいは、健康志向バイアスとも呼称される「検査を定期的に行うような人」は、日常生活においても食事や運動に対する健康行動が「検査を行わないような人」とはかなり違いがある。健康診断で得られた検査結果から肥満度の指標であるBMIの平均を求めてしまったのでは本来調べたかった集団全体の実態と比べて、不健康な生活をしている人が除外され、実際よりも健康な値になってしまう恐れがある。

ましてや蓄積された医療データを“目的外利用”する医療データ研究は、一般の観察研究と比べてさらに“落とし穴”が色々とあり、果たしてその全てに気づけるだろうかと考えた場合、たやすいことではなさそうである。前回は観察研究において代表的なバイアスを幾つか紹介したが、今回は本コラムのテーマである医療データを用いた研究する場合にさらに絞り込んで、注意しておきたい主な“落とし穴”について幾つか取り上げよう。

誤分類

観察には誤差がつきものである。昨今、世の中に出てきたばかりのウェアラブルによる体温や血圧の測定がどの程度の測定誤差を含むのか詳しい情報はわからないが、より信用出来そうな“先輩”である体温計や血圧計であっても、我々の方が正しくない使い方をしてしまえば得られる値は真値から遠ざかってしまう。

「誤分類」というのは体温や血圧のような連続量での測定誤差の親戚のようなもので、言わば「カテゴリ(分類)データの誤差」である。重症患者を「軽症」としたり、妊婦のエコー情報から実際には男の赤ちゃんであるのに「女の子」としたり、といったミスは誤分類である。こうした誤分類は「医療データを用いた研究」の中で様々な形で登場するため、対処策として適切な対応と妥当な考察が求められる。

まずは研究者が観察対象として定義したい「病気の定義」での誤分類を考えてみよう。医師による診断が百発百中というわけではないだろうし、観察研究一般でも病気の誤分類はあり得るだろうが、特に医療データを2次的に利用して研究しようとすると、病気の誤分類問題は診断ミスといったごく小さな確率の問題よりも遙かにポピュラーであり、重大な懸念である。

具体的には、主治医や医療データ提供者とは離れた立場の研究者にしてみればテキスト型の病名や病名コード、場合によっては処方薬や遺伝子検査の実施情報などから、自身が調べたい対象にその症例を加えるかどうか考えなければならない。観察の対象群はなるべく“純度”を高めたい場合が多いため、感度をある程度あきらめ、陽性的中率向上策を講じることでどうにか誤分類の課題を許容範囲に収めるアプローチをとることが一般的だ。胃がんの研究を例に言い換えるならば、「今回定義した胃がん症例が本医療データ内全体の何割なのかは不明だが、選んだ症例が少なくとも胃がんであることはかなり確かである」ことが目標となる。

一方、アウトカムの誤分類問題、すなわち完治や所定の副作用発現、あるいは死亡がその観察対象の中で何割発生するかについては、陽性的中率よりも感度の方が気になる場合が多いだろう。胃がんの研究を例に言い換えるならば、「今回定義した死亡イベントについては、もしかしたら生存例を若干含んでしまっているかもしれないが、死亡率の推定値としては妥当と考えられる」ことが目標であり、陽性的中率を100%まで極めて「確実に死亡した症例のみをイベントとして定義」したのでは死亡率を過小評価してしまうことになる。

その他、キチンと服薬されているのかについては観察研究一般でも不安の種であるが、当該の医療データとは別のところで処方された医薬品を併用しているなんていう不安は、医療データを用いた研究の方が大きいことだろう。これは「併用薬あり」を「併用薬なし」としてしまう誤分類の問題と言い換える事ができる。

また、前回のコラムで紹介した思い出しバイアスは「イベントが発生した症例や妊産婦は頑張って既往歴や既治療を思い出すが、イベントが起きていないと既往歴や既治療があってもそれが思い出せず“なし”と誤分類されがち」という話である。これは単なる誤分類(ミス)の問題だけでは済まず、「誤分類バイアス」というクセ者である。全体としてではなく比較したい一方だけで誤分類が発生しがちなので、比較の妥当性、言い換えるならば研究そのものの妥当性さえ揺るがしてしまう。