PICOT~研究デザインの骨格作り~

さて、既存の研究を調べた結果、それでもなお満足ではない場合には、自らが研究を手掛けなければ疑問は解決されない。先回のコラムにて、薬剤疫学のガイドラインには「リサーチ・クエスチョンはPICOTテンプレートを使って表現できるかもしれない」という記載があることを紹介したが、PICOTとは問題の定式化であり、研究デザインの粗い骨格である。


P: patient(研究対象となる患者群)

I: intervension(介入、薬剤の処方や透析、放射線照射、運動療法など)

C: comparison(比較対照群、興味ある対象群と比べてみたい群)

O: outcome(結果としての事象や成果)

T: Timing(観察対象とする期間)


どちらかといえば最後のTがない、PICO(ピコ)という表現の方がより知られており、また、IにかえてE(exposure)をもちいたPECO(ペコ)という表現もある。少し具体的に考えてみよう。例えば胃がんの研究であれば下記が典型的なPICOTとなろうか。


P:胃がん患者全般

I:新規治療レジメン

C:従来の治療レジメン

O:5年生存率

T:5年間


実際のところはもう少し細かく表現する必要があり、例えばPであれば「2010年より集積している当院の医療DBにおいて、新規で胃がん、と診断された全ての症例」、Tであれば「胃がんと診断されて以降、当該医療DBにて生存が確認できた最終日または死亡日」のようにより具体的な表現を心掛ける必要がある。無論、こうした典型的な形で表現できる場合ばかりではなく、例えば自己対照モデルのような少し変わった研究デザインであったり、「安全対策はうまくいったかどうか」といったテーマの研究をデザインしたりする場合にはPICOTがうまく適用できないことの方が多いだろう。

良い研究かどうか

今から行おうとする研究が良いものかどうかを考えるうえでは、FINERというチェック指標が知られている。


F: feasible(実行可能性、人・金・物を含めてその研究を実施できるかどうか)

I: interesting(興味深さ、面白さ)

N: novel(新しさ、独自性)

E: ethical(倫理性)

R: relevant(必要性、社会的意義)


この指標で、例えば医薬品の承認申請で用いられる無作為化臨床試験のような介入研究と臨床現場での観察研究とを比較してみよう。一般には無作為化臨床試験は医学系研究の“神”のように認識されがちなところもあるが、feasibleのポイントにおいては大抵の場合、観察研究よりもはるかに劣る。加えて、ethicalのポイントにおいても究極的に「最善と思われる治療が採択されるとは限らない」ことから、一般臨床を観察する、という観察研究よりも見劣ることにもなる。一方、その研究において待望の新薬が承認されるかどうか、という訳であるからrelevantの視点では高得点である。然るに、日本においては「医薬品が承認されるかどうか」を目的としたものであればrelevantのポイントからして実行意義はあるだろうが、そうでない介入研究を実行しようとした場合は、観察研究と比較してみてfeasibleとethicalの視点で見劣りすることから、良い研究に仕立て上げることはかなり難しいと言える。また、本コラムのテーマである「医療DATAを用いた観察研究」は、一般の観察研究と比べてもfeasibleの点において優れているといえるだろう。


なお、私が考えるチェックすべきポイントは他にもある。医療データを用いた研究を贔屓(ひいき)するわけではないが、「研究開始から結果が得られるまでの期間」はときに極めて重要であり、この視点がFINERにはないのが惜しい。実際にサリドマイドによる催奇形性リスクを調べようとした場合、今からサリドマイドを処方する人としない人とを比べる研究は、既存の情報を用いた研究と比べて即時性において圧倒的に劣るからである。そしてまた一方では、「結果の信ぴょう性、頑健性」もチェックポイントとして取り上げたい。医療データを用いた研究はその即時性において他のアプローチを圧倒する一方で、やはり無作為化臨床試験によって得られた結果の信頼度には及ばない。追加したいこの2つのポイントは大抵の場合において相反することになるのは自明だろう。情報学一般として、速報という情報価値と、しばらくして得られる正確かつ詳細な情報の価値の関係性によく似ている。