実食

解析結果をもってして調理の完了とするかどうかはともかく、結果の考察については研究者自らが行いたいところだ。またここで陥りがちな人間の認知の揺らぎにもくれぐれも留意したい。自身があらかじめ「こういう真実があるに違いない」と思っていた結果を打ち消すような解析結果が得られた際に、心理学分野でいうところの“認知的不協和”が発生しがちである。すなわち、2つの異なる認知を身体の中で共存させることは出来ないため、どうにかして認知を是正しようとする。例えば「解析処理が間違えていたのではないか」「データの集め方に不足や不備があったのではないか」といったように、相変わらず自身の信念を優先してしまいがちになる。勿論、その通り、研究実施の過程の中でミスが生じたのかもしれないが、一方で「私の確信は間違えていたようだ」と受け止める勇気も持ちたい。君子は豹変(ひょうへん)す。昨今では「ブレない」姿勢がもてはやされているようであるが、私の知るところではむしろ自身の考えやこだわりに疑いをもって的確に是正することが出来る人の方が君子であり、優れている。言うは易し、でもあるのだが。

ところで研究の終了とは一体どの段階のことなのだろうか。研究が科学である以上、その分野の発展のために一歩でも半歩でも進めるうえで研究結果を社会に公開することは義務でもある。研究結果は基本的に「研究結果報告書」にまとめるものであるが、そのうえでさらにどのようにして社会に公開するのかを考えたい。今時の社会発信といえば、個人ブログ等、SNSのつぶやきといった手段もあるが、折角公開するのであればやはりより多くの人に興味を持って見聞して頂けるような手段を考えたい。医学系の学会は国内国外に数多くあるが、チャンスがあるならば一過性の学会発表よりも専門誌への掲載を目指した方が良いだろう。日本語で記載したのでは日本語を読める人にしか訴求できないので、そうなると英語で書く必要が生じる。自身が英語で記載し、ネイティブがチェックするという方法もあるし、当該領域の英語翻訳を支援するサービス会社を探すという方法もある。また、専門誌といっても疾患領域の他に手法や概念体系における専門誌もあり、例えば「乳がん治療の経済的評価」に関する研究であれば乳がん一般やオンコロジー関連雑誌だけでなく、医療経済学分野や社会科学分野の専門誌への掲載を目指すという道も考えたい。例え優れた研究成果であっても、雑誌の読者層とそぐわなければ当該雑誌には掲載されない。より多くの人の目に止まるのはどれか、という視点で考えるうえで引用数指標(Citation Metrics)を参考にする人も多いだろう。中でもインパクトファクターはジャーナルの社会的影響度をみる指標として有名である。無論、掲載することを了解して貰えるかどうかについては専門誌側の都合で決定されることになるため、幾つもの専門誌に申し込んではリジェクト(拒否)、申し込んではリジェクト、を繰り返し、どうにかアクセプト(採用)して頂くという作業が必要になることを承知しておく必要がある。因みに当該の雑誌掲載について合否を決める工程はピアレビュー(同僚による批評)と呼ばれる。私もたまに頼まれるのだが、論文と真剣に向き合う必要があり、結構、神経もすり減るものである。

STROBE声明

よい研究の評価指標として前回はFINERを取り上げたが、STROBE声明は観察研究をするうえで注意すべきポイントが網羅的に示されておりチェックリストとして有益である。介入研究ではCONSORT声明が有名で、STROBE声明はその観察研究バージョンと言ってもよいかもしれない。レビューアの視点から申し上げるならば研究のコンテンツがどうこうというよりも、研究開始の動機や背景がよくわからなかったり、どのような研究デザインでどのような解析処理をしたのかが明確で無いためにリジェクトせざるを得ないということの方が多かったりもする。その意味で、こうしたチェックリストに則って実施され作成された研究論文であれば、レビューアとしてそうそう指摘できるところは無くなるだろう。観察研究を行ううえでの留意すべき事項は本コラムで書ききれるものではなく、こうした疫学専門家によるツールを是非とも活用されたい。