後付け解析

研究倫理を課題として取り上げる際には大きく異なる2系統の概念があるので注意しておく必要があるだろう。すなわち、先に述べた個人情報を守る、研究参加に同意頂く、といった研究の対象となる人への倫理と、もう1つは科学的正義に対する侵害という視点における研究者自身を対象とした倫理である。後者の倫理規定違反として、悪い意味での代表はデータのねつ造ということになりそうだが、もう少し小悪党ということでいえば研究者に都合のよい結果を意図的に操作する「後付け解析」が代表的といえよう。医療データを2次的に利用しようとする場合、これは甚大な問題であって研究者が既にそのデータに以前からアクセス可能な立場にあったとしたら、要するに「先に解答を見ることができる」わけで、研究者の持論にフィットする条件設定や解析手法を幾つも比べた上で、もっとも都合のよい研究計画をあたかもそのような事前作業をしていないように振る舞って策定することが出来てしまうことになる。もちろん、こうした後付け解析問題は医学系研究全般にもいえる訳で、データが収集されてから解析手法を変更したり、種々の定義を変更したりするという違反行為は性悪説的にいえば医療データ研究だけの課題では無いのだが、昨今では事前にその研究デザインを公表しておく等の“マナー”が標準化しつつあることから、問題解決とは言えないまでも相応の問題解消はなされている。一方、医療データが既にある状態でなおかつアクセス可能ということになると、「決して後付け解析、都合の良い手法を用いたのではございません」という、身の潔白を証明することは簡単にいかない。加えて、何せ目的外利用をすることから、実際のところはデータをああでもない、こうでもない、と色々と触ってみてようやく妥当な定義や解析手法に行き着くことが常であり、これは悪徳行為では決してなく、正当な医療データの2次利用のアプローチでもあることから始末が悪い。良かれと思って行う行為が、第三者からしてみたらどうにも「怪しげ」にみえてしまうという課題は医療データを使った研究の場合、特に問題は根深いのである。

利益相反(COI、conflict of interest)

もう1つ、科学的正義の侵害に掛かる倫理上の課題に関係するのが利益相反である。利益相反の言葉の意味は単に研究結果がどのようになるのか、その結果が直接的または間接的に研究者の利益に関わる状況のことを指す。一般的にいっても研究を実施する以上、その研究結果がどうなるのかに甚大な興味があることから、研究者が完全な中立的立場にいることの方がむしろ珍しいのであるが、特段、私のような製薬企業社員の場合、社会通念的に見て、自社品vs他者品の有効性の比較などを自ら研究しても、その結果考察が完全に中立的なのかどうかは疑われてしまっても仕方がないところだろう。もちろん、製薬企業社員だけが疑われるということではなく、製薬企業等の営利団体から資金提供を受けて実施される研究は仮に中立的な立場のアカデミアが主体となって行ったとしてもその疑わしさが生じてしまうわけで、このような利害関係に関する情報は必ずわかるように記載しておく必要がある。研究者の良心として必要不可欠なマナーであると捉えておく必要があるだろう。