恐竜博物館

先日、夏休みを頂き、家族と福井県にある恐竜博物館を訪ねてきた。最寄りの勝山駅に降り立つと、のどかな山あいの地で人影もなくこんなところに博物館など建てても誰も来訪しそうにない、そんな風であった。ところが実際に博物館に到着してみると多くの人で賑わっており、館内のレストランは「150分待ち」の札がかけられていた。何故に人はこんなに恐竜に魅せられるのだろう。恐竜、つまり太古の昔に生息していた直立歩行できる大型爬虫類の存在が正式に認められたのは200年ほど前のことで、恐竜生息の時代の長さとは違って恐竜研究の歴史は長くない。当初、各地で発見された大型の骨は、それが全体としてどのような骨格のものなのか皆目見当がつかず、中国では竜の骨として漢方に処方されていたなんていう話もある。確かに、発見された大きな「骨のようなもの」から現代の私たちが認識しているティラノサウルス、トリケラトプスらを描写するのは簡単な仕事ではなさそう。研究者らが骨と骨をつなぎ合わせ、そこから「太古の昔に恐竜が数多く生息していた」と結論付けることができるようになったというのはまさしく偉業である。

さて、医療データ活用はこれからどのように展開していくのだろう。今回からの5回は太古の昔とは反対側、医療データ活用の未来について考えてみたい。最初に取り上げるのは医療データと医療データのつなぎ合わせの課題である。あるいは医療データに限らず、私たちの日常に関するデータ、例えばスーパーで何を買ったか、どの銀行に預貯金があるのか、今日はどの駅で降りたのか、そしてゲノム情報等々までつなぎ合わせたらどのようなことが起こるのか。映像で見た恐竜の骨のつなぎ合わせ作業は地味な作業に見えたが、この作業なくして地球上に恐竜が存在していたという発見には至っていないはずである。医療データ同士をつなぎ合わせることで何が発見されるのだろうか。案外と太古のロマンを超える大発見もあるかもしれない。

ライフコース疫学への活用

「ライフコース疫学」についてはまだ馴染みのない方がほとんどだと思われるが、それもそのはず、データ同士のリンクがなされなければ本邦における研究はなかなか進むはずもない学問領域であるからだ。東京医科歯科大学のサイト*によるとライフコース疫学には「胎児期、幼少期の環境の長期的影響、養育環境の健康影響、国際比較研究」とカッコ書きで補足説明がされており、どんな学問領域なのかイメージしやすい。また、病気になる前の、病気にならないための研究という色合いも濃く、健常人も観察対象とするのがしばしばである。リンクされたデータが皆無ということであれば出生時等のごく初期段階から観察対象となるお子さんを登録し、都度、フィールド調査で何十年もかけて問い合わせし続けるより仕方がない。せめて小中学校での健康診断情報だけでも医療系データとリンクできていれば少しは医療データを使った研究も可能なのだろうが、学校の健診情報は文部科学省、医療系は厚生労働省と、それぞれ所轄が異なることもあってか、ライフコース疫学の研究者にとって、日本は取り分け厳しい研究環境といえよう。もし仮に種々のデータがリンクされたとしたらどうだろうか。前述した研究課題に留まることなく、例えば運動部所属は短命なのか長寿なのか、貯蓄が多すぎると不幸になるのか、ある特定の場所(有害物質の曝露環境、スポーツジム、教会、満員電車等々)に習慣的に行く人は短命になるのか長寿になるのか、様々な研究が可能となる。ライフコース疫学のテーマは人生そのものであり医学系研究における従前の研究テーマ「糖尿病を改善するには」から前にはみ出して、「どのような思考や行動が糖尿病をもたらすのか」、そしてどのような“刺激(ナッジ)”が、その行動を変容させ糖尿病を罹患しないのかという研究も可能となる。