規制要件と現状

昨年5月に施行となった次世代医療基盤法(医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律)は別名「医療ビッグデータ法」とも呼ばれ、個人情報保護法がいわば利活用のブレーキ的役割を担うのに対し、特にデータ間のリンクを実現し、利活用のアクセル的役割を担う法律であると期待されていた。「されていた」と過去形で語るのは未だ早いかもしれないが、認定された組織であれば医療データ同士をリンクしてよい、とされていたその「認定匿名加工業者」が未だないことからすれば、期待よりも失望に近い感情で受け止めておいていた方が良さそうにも思える。風の噂で語ることはマナー違反かもしれないのだが、「認定条件が厳しすぎる」等の声も聞こえてくる。一方、今年に入ってから「医療情報基本法」なる議論が進められている(第1回ワーキンググループの会合は2019年1月9日)*。これは個人情報保護法と次世代医療基盤法を上書きする法律というお話のようでもあり、データのリンクを日本で具現化するという希望についてはむしろこちらに期待を寄せた方が良いのかもしれない。

小さなデータを「寄せ集める」

データをつなげる、というテーマは基本的に同一人物の情報をつなげる、あるいは親子関係や血縁関係にまで広げてつなげるという話に限定されるのだが、より広義に「つなげる」意義を踏まえるならば、類似のデータを1つところに寄せ集めることも精神論としては近しいといえるだろう。

AMED(Japan Agency for Medical Research and Development、日本医療研究開発機構)では、その発足当時よりデータシェアリングの促進を意図して希少疾病領域へ注力していると伺ったが、希少疾病領域の医療者らは目の前の稀有な症状を呈する人を前にして、過去に同じような症状の人は居なかったのか、世界のどこかで同じ症状の人は居ないのか、情報を渇望するという。実際に未診断疾患患者を登録する仕組みを作り(IRUD*)、全く別の国で同じ症状の人が見つかったという事例もあるという。

1件では病名すらつかないが2件あれば病気として認定することができる。世界に10人、その病気の人が居るとわかれば製薬企業が医薬品を開発する動機にも成り得る。世界が“つながる”、素晴らしい仕組みである。

ワクワク、ドキドキ

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恐竜の骨のつなぎ合わせと比べたら、医療データをつなぐことなど朝飯前の話であろう。マイナンバーでも保険証番号でも、何であっても構わない。リレーショナルデータベース一般でいうところのIDさえあればいい。プログラムの初学者であっても簡単につなげることができる。ただしそれは、“技術的には”である。それがどうにも日本では実現できないことが歯がゆい。リンクされたデータを使って誰かのプライバシーを侵害しよう、などというのはこれっぽっちも考えたことがない。ただただ、医療に、社会に貢献したいだけなのだが。

恐竜博物館で観た骨のつなぎ合わせ作業の映画は、私にはその作業員らが退屈そうに映ったのであるが、実際にインタビューをしてみるとその退屈そうな作業がワクワクドキドキしてたまらない、楽しい作業なのだそうだ。新種の恐竜かもしれない、日本でこれだけ大きな恐竜の骨が見つかるのは初めてだ、等々。あんな風に自分もワクワク、ドキドキしながら仕事ができたらどんなに良いだろうか。なんてことを思いめぐらしながら、データ同士がつながる、それを使って私も研究している、という日が来ることを今日もまた夢みている。

*厚生労働省サイト「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて」(2019.8.14.取得)

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/04/dl/s0428-8a.pdf

*東京医科歯科大学 国際健康推進医学分野サイト(2019.8.15.取得)

https://tmduglobalhealthpromotion.com/project/224.html

医療情報基本法策定WG(第1回)議事次第 (2019.8.15.取得)

https://jump.or.jp/wp-content/uploads/2019/02/c51908d32ebbf47c93b3fcc562500810.pdf

IRUD( Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases) 未診断疾患イニシアチブ