コラム連載を振り返って

【第1回~第7回】

さて、これまでのコラムを振り返ってみよう。第1回から第7回にかけては、医療データを活用しようといった機運とその周辺事情、関係する人たちについて概観した。本コラムの読者層については「医療データベースを構築しようと考えているのだが、どのようなニーズがあるか」という問い合わせが多かったこともあり、使う人だけではなく、作る人にも向けて記載する必要があるのだな、と感じていた。振り返ってみると、当時は医療データ活用の潜在ニーズが掘り起こされ、いよいよ本格的な活用が勃興するエネルギーのようなものを肌で感じていた。志の高い医師やIT企業からは、ごく限られた研究者や公的機関だけではなく、より多くの活用者を見込んでより便利な医療データ活用の基盤を開発しようとしていたし、私もこうした方々の動きを応援し、構築するうえでの留意事項や製薬企業としてのニーズを進言したりもした。あれから2年が経ち、確かに医療データ活用の方向性は示されているものの、情報保護に対する意識も強いことから、私のような民間企業に所属する者に対して、果たして2年前に想像していたようなデータへのアクセス権が確保されるのだろうか、という不安が必ずしも解消されていないことが気掛かりではある。

【第8回~第21回】

第8回から第21回までの14回は、医療データを適切に利用するために重要となるスキル、医療データの品質確保(第8回~第12回)、研究デザインの基礎(第13回~第17回)、医療データ分析(第18回~第21回)をそれぞれ順番に取り上げた。本コラムの読者層を想定すると3つのスキルすべてに及第点という方は少なく、むしろ医師や薬剤師ではあっても情報工学にはこれまで縁のなかった方や、IT企業にお勤めで情報工学はご専門にされてはいるものの統計学については利用機会がなかった方などへ向けて、それぞれ入門編ということを意識して紹介させていただいた。また、昨今では個人情報保護について相応の理解が求められていることから、仮に私が法学に明るければ法規制についても同様に4~5回ほど取り上げるべきであったかもしれず、引き出しの少なさをお詫びしたい。一方、心理学については技術編14回の中では取り上げなかったものの、医療データの「リアルワールドデータ性」を踏まえるとそのスキルの必要性は高く、こちらは未来展望、第29回で取り上げさせていただいたところである。心理学分野の学会にお邪魔することがあるが、案外と「社会課題解決のために心理学を活用するには」といった話題がよく取り上げられている。SNSやモバイルアプリの普及に伴い、こうした媒体を通して得られる情報ソースを適切に分析するためには、私は心理学分野の専門力が不可欠だと考えており、本来、心理学は実学であるはずだ。心理学の社会活用はもっと進めるべきだろう。もちろんそれは社会心理学、犯罪心理学、発達心理学といった直系の「心理学系」だけでなく、医療や疫学分野にも近いウェルビーイング(幸福学)、QOL、看護学、ヘルスサービスリサーチなども含まれる。むしろ学問領域として線引きすることは無用かもしれない。

【第22回~第25回、第26回~第30回】

第22回から第25回までは、具体的に医療データを使う場面を想像しながら、実際問題として何が課題となるのかを考える機会とした。第26回から第30回にかけての未来編は、我々が見ることのできない明日のことについて、今、見えているところから想像を膨らませてみるといったアプローチをとった。AIに象徴される科学技術の急進と普及の早さはすさまじく、その先にある未来像に大きな影響をもたらすであろうことは疑いの余地もない。一方、そこには必ずしも便利さや医療データのさらなる充実だけには留まらない負の側面もあり、行き過ぎた監視社会がもたらすディストピアの陰も感じるところであった。先日も、データを消去する生業の会社において不届きな社員が個人情報を盗み出し、ネットオークションで売ることを日常茶飯事としていたというニュースがあったが、このように医療データ活用促進の中で我々のプライバシー保護はかなりぐらついている。だからといってデータ活用を停滞させてよいことにはならないだろう。