日本政府が考える「医療データの活用」

本編では触れなかったが、未来を予測するうえで「日本の政府は今、何を考えているのだろうか」という視点は重要である。政治に近い話に触れると、どうにも右より左より、支持政党は何かという発想が持ち上がるせいか、科学系のジャーナルでは取り上げられる機会は極端に少ない。また、純然たる自然科学分野であれば政治に関する話題には触れなくてもさほど支障は生じないことだろう。しかしながら「医療データを使う」という視点はそうはいかない。本コラムでも度々取り上げたように「私の医療データは私だけのものだろうか」、個人の利権と公共財との両義性に対しては社会的合意を取る必要がある。つまり「誰のものかについては、国民が決める」、あるいは「誰のものかについては国民が選んだ政治家が決める」とでも言おうか。こうした白黒がはっきりとしない状況下において、特に企業イメージを気にする産業界は「ダメ、といわれる可能性がわずかでもあるならば利用しない」といった、法学分野でいうところの“萎縮効果”が働いてしまう。日本の産業が法規制の曖昧さによって行動を萎縮することで、他国とはフェアに競争できない、不利な競争を余儀なくされたケースは枚挙にいとまがない。

さて、今の日本における(医療)データ活用に対するスタンスはどうだろう。今年の1月に安倍首相がダボス会議にて演説した内容を振り返ってみよう。

(前略)最初に私は本年のG20サミットを世界的なデータ・ガバナンスが始まった機会として長く記憶される場と致したく思います。(中略)これから何十年という間、私たちに成長をもたらすもの、それはデジタル・データです。(中略)医療や産業、交通やその他最も有益な、非個人的で匿名のデータは、自由に行き来させ国境をまたげるように。(中略)メリットを及ぼすのは私たち個人です。巨大で、資本集約型の産業ではありません。(中略)成長のエンジンは思うにつけ、もはやガソリンによってではなく、ますますもってデジタル・データで回っているのです。(後略)

首相の演説の中で興味深いのは、「データ」を「ガソリン」と対比して説明している点である。ガソリンの価値を知るまでに30年、40年と掛かったように、データもその価値が認識されるまでに長い歳月が掛かり、今ようやくそのことに気づいた、と。そしてそれを国際流通させるにはガバナンスを整備する必要がある、ということである。医療データに限定しているわけではないが、それでも日本として(とすると語弊があるならば「日本の与党として」)はデータ活用にいかにポジティブな姿勢であるかが伺えるであろう。

適職と本業と

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私はこれまでに学術的な論説の執筆や研究結果の論文化については経験があったものの、コラム連載という経験はなく、専門家の視点でみれば到底、合格ラインには至らない代物であったかと思う。ただ、私個人としては、自分の身の回りで起きたことと当回のテーマを紐付けたり、極力専門用語を避けたり、あるいは哲学、社会学、心理学といった異なる分野の学問領域の視点を加えたり、といった試行錯誤は確かに会社での仕事とは全く異なるものであり、この2年間はハードでありエキサイティングであった。特段、4コマ漫画の構想については時間が十分あれば良いものができるというものでもない。問われるのは発想力や創造性であって、締め切りを意識して焦ってしまうとかえって思いつかなかったりもするものである。翻って会社での自分の仕事については、こうした種のプレッシャーを感じることはなく、つまりは発想力や創造性の要求がほとんど無いのだな、ということを思いがけず痛感することにもなった。誰かが準備してくれた資料をチェックしたり、検討会議に出席したり、契約書を承認し捺印したりといった仕事は組織の機能としては大切であるが、「発想する」仕事とは遠い。その意味で、果たして自分に向いている職業は何だろう、と考える機会にもなった。

ということで、それではこれから転職活動に邁進します、という話ではない。何よりこうした機会を許可してくれた会社には感謝しており、執筆や社外発表、行政との打ち合わせ等々でとにかくオフィスを不在にすることが多い私を許してくれている同僚各位に心から感謝している。コラムニスト、漫画家としての仕事はここで一旦、一区切りとさせていただき、2020年の来年は本業に邁進したい(と、今は思っている)。

住み慣れた部屋を離れて新しい暮らしを始める。気持ちの高揚と少しばかりの寂しさが入り交じる年の瀬である。


長らくのお付き合い、誠にありがとうございました。


*1 日本薬剤疫学会サイト「日本薬剤疫学会役員名簿」より

評議委員の中から選出される理事職として筆者の名前がクレジットされている

(本名「青木事成」として所属機関「中外製薬株式会社」と共に記載がある)

http://www.jspe.jp/introduction/meibo/

*2 日本臨床疫学会サイト「専門家制度:上席専門家・認定専門家一覧」より

筆者の名前が上席専門家に記載されている

http://www.clinicalepi.org/senmon/senmon03.html