当コラムで以前紹介した、「新しい高齢者の社会運動『ビレッジ・ムーブメント』」(2013年2月13日)もその1つである。これは、2002年にマサチューセッツ州ボストンのビーコンヒルという地域で始まった。きっかけは同地域に住む高齢女性が「施設に入るより、自宅にずっと住み続ける方法はないか」と考え、隣人らと協力して在宅高齢者に家事、買い物などの支援をするNPO団体を設立したことだ。これは「ビーコンヒル・ビレッジ」(BHV)と名づけられ、「ビレッジ・ムーブメント」(ビレッジ団体)として他の地域にも広がり、10年後にビレッジ団体は全米90か所に設立された。さらにその後も拡大を続け、2018年7月現在、全米200か所以上に設立されていることがわかった。

私は7月に米国を訪れ、カリフォルニア州バークレーにある「アッシュビー・ビレッジ」(ASV)の活動を6年ぶりに取材させてもらった。ASVは他のビレッジ団体と同様に高齢者の在宅支援と社会的なつながりづくりに力を入れている。

会員たちは年会費750ドル(約8万2千円)を払えば(会費は個々のビレッジ団体で異なる)、必要に応じてボランティアなどによる在宅支援を受けられ、つながりづくりのためのイベントやグループ(同好会)に参加できる。ASVでは、ヨガ、ハイキング、映画鑑賞、メディテーション(瞑想)、現代詩朗読、読書、ブリッジ、パズル、編み物など20以上のグループがあるが、私はその中で、「80歳プラスの会」と、「麻雀グループ」を取材させてもらった。

80歳を過ぎた人たちの不安と課題

「80歳プラスの会」は、80歳を過ぎた人たちが抱える共通の悩みや問題について話し合い、同時に同世代とのつながりを強める趣旨で始まったという。実際この年齢になると、60代や70代の頃と違った不安や問題に直面することが増えてくる。例えば急激な身体機能の低下や加齢による病気などで、それまで出来ていたことができなくなったり、また、配偶者や同世代の友人・知人などを失い、孤立する可能性が高くなったりする。

だからこそ、これらの問題を共有している人たちと話し合う機会を持ち、解決策を探ることが大切になってくるのだ。誰かが何かの問題について話すと、他のメンバーの中にはすでにそれを経験している人もいたりするので、お互いに分かち合うことができる。あるいは、解決策を見つけられなくても、「同じ問題を抱えている人が他にもいる」と認識するだけでもプラスになるという。

80歳を過ぎて特に顕著になるのは、死が間近に迫っているのを実感することだという。この会を立ち上げたのは約2年前だが、これまでに7人のメンバーのうち3人が老衰や病気などで亡くなった。つまり、彼らは「明日何が起こるかわからない」という不確実な状況の中で、毎日暮らしていることになる。

メンバーの一人のモンローさん(83歳 男性)は、「毎朝起きると、“今日も生きていたか”と独り言を言っています」と話す。このような状況についてもメンバー同士で正直に話し合うことで、不安を和らげることができるのだという。

さらに、80歳過ぎの人たちにとって重要な問題となるのは車の運転である。社交イベントから買い物まで、自分の行きたい所に自由に行ける手段を確保するのは自立生活を続けるのに不可欠だが、加齢によって視力や身体能力が低下し、運転を続けられなくなるかもしれない。実は会のリーダー、マイリン・マイヤーさん(82歳 女性)もこの問題に直面している。

私がマイリンさんに取材申し込みの電話をかけ、会のミーティングが行われる場所にバスで行くつもりであることを告げると、彼女は親切にも私の滞在先まで車で迎えにきてくれた。そして安定したハンドル操作で、バークレーの中心街から北部の静かな住宅街へと車を走らせた。

私が「運転うまいですね」と言うと、「以前より速度を遅くして、慎重に運転しているのよ。特にバークレーは歩行者優先の町なので、気をつけないとね。事故で人を死なせたくないから」と話した。

それから、彼女は視力が徐々に低下していく目の病気を患い、近い将来運転ができなくなる可能性があると告げた。もしそうなったら、ASVで提供している、ボランティアによる送迎サービスを利用するつもりだという。彼女はこのような支援が必要になることを見越して、3年前にASVに入会したのだ。

マイリンさんは夫を亡くしてから、ずっと一人暮らしをしている。長男が同じ町に住んでいるが、一緒に住むつもりはなく、彼もそれをわかってくれているという。長く住み慣れた自宅が好きだし、できれば老人ホームなどの施設には入らず、ずっと家で暮らしたいと考えていると話す。

「施設に入れば、入居者は皆、同じ時間に起床し、朝食を共にしたりするが、そういう生活があまり好きではないのです。体が悪くなったり、病気になったりすればいずれは入らなければならないのかもしれないが、それでもできれば自立型の施設に入りたい」。

米国にはマイリンさんのように子どもが近くに住んでいても、「一人暮らしの方が性に合っている」という人が少なくない。だから、高齢者の自立生活を支援するASVのような団体が多く存在するのである。