老人が大事にされる「介護天国」

日本の介護保険制度は高齢化の進展で財政が逼迫し、利用者のサービス抑制や自己負担増などの問題に直面している。さらに在宅介護者が追いつめられて、長年連れ添った妻や夫、あるいは親に手をかけるといった悲惨な事件が相次いでいる。

一方、志賀氏の著書には、「フィリピンに介護や老人の問題はない。なぜなら、家族がみんなお年寄りを愛し、尊敬し、大切にして、面倒を見るからだ。フィリピンのお年寄りは幸せな生活を送ることができる」と書かれている。

フィリピンの家族ではお年寄りは一番偉くて大事にされているため、家中の者がこぞって面倒を見る。それに人件費が安いので、人手が足りなければいくらでも人を雇える。志賀氏いわく、フィリピンは「老人大国」、「介護天国」だという。

志賀氏によれば、フィリピンではたとえ金がなくても家族皆が協力して子どもを育てたり、お年寄りの面倒を見たりしているので、皆が愛されていると感じ、幸せなのだという。

実際、フィリピンでは自分が幸せだと思っている人の割合が非常に高い。ギャラップ・インターナショナルが2017年、各国の「幸福指数」(自分が幸せだと思っている人の割合)を調査した結果、1位はフィージー(指数92)、2位はコロンビア(同87)、3位がフィリピン(同84)となった。フィリピンの一人当たりのGDPは世界で129位であることを考えると、富があれば人は幸せとは限らないということがわかる。

また、フィリピンには介護養成学校(6カ月以上の訓練)が500校以上あり、フィリピーノの天性を活かして介護士を志す若者が毎年何万人と卒業している。その多くは海外を目指すが、カナダなどでは数年間、介護士として働くと、カナダの永住権が与えられる(志賀氏の著書)。

日本人倶楽部の名誉会長を務める家田昌彦氏によれば、倶楽部の会員の中にも介護サービスを受けている人が少なくない。住み込みの介護ヘルパーを月2万円くらいで雇えるし、週2~3日、1日何時間かの時間制のパートにすればもっと安くなるので助かっているという。

フィリピン移住で失敗しないために

こうしてみると、フィリピンは生活費が安く、気候が暖かくてストレスもなく、日本人退職者の移住先として理想的のように思える。しかし、「フィリピンに移住する前にしっかり準備しないと、“こんなはずじゃなかった”と後悔することになりかねない」と注意を促す人もいる。理由は言葉や生活習慣の違いもあるが、最も大きいのは考え方の違いではないかという。

日本企業の駐在員を含めてフィリピン滞在歴が50年に及ぶという、前出の家田氏(80歳)はこう話す。

「フィリピンに住むということを忘れちゃって、日本と同じ感覚でこちらに来ると問題が起こりかねません。こちらでしばらく生活して、それで初めてこちらの方とうまくやっていけるかどうかわかるのであって、“日本より生活費が安い所だから、行ってみようか”という考えではちょっと問題があります。日本のレベルで考えるからいけないので、“ここはフィリピンだ”という感覚で生活すれば、“こんなものか”と我慢できるわけです。フィリピンに住むためには、日本でいう“忍耐、ペイシャンス”が必要かもしれません」。

家田氏は日本人退職者に対し、「フィリピン移住を決める前に、ロングステイか何かで1~2カ月生活してみて、“こちらで住める”という自信がついたら、来れば良いのではないか」とアドバイスする。