98歳女性が突然運転をやめた理由

「車社会アメリカ」:バークレーからサンフランシスコへ向かう高速道路

高齢ドライバーが自身の身体機能の低下による運転への影響を冷静に認識し、運転をやめる適切な決断ができるようにすることは非常に重要である。

筆者は5、6年前に、カリフォルニア州バークレーのシニアセンター(高齢者支援センター)でダンスを教えていた98歳の女性講師を取材した。それまでずっと無事故で運転に不安を感じたことはなかったという彼女は、その数カ月前まで自分で車を運転してシニアセンターに通っていたが、ある出来事をきっかけに運転をやめる決心をした。

その出来事とは、運転中に左折しようとして、左斜め前方からきた対向車と危うく衝突しそうになったことだ。交通法規上は彼女の方に優先権があったが、彼女の車の速度が遅かったことと、相手の車が視界に入るのが遅かったことにショックを受けた。それからDMVの「高齢者安全運転ガイド」などを読み返して、それが加齢による視力低下だけでなく、視界も狭くなったことが原因だと認識し、運転をやめる決心をしたという。

彼女にとっての懸念は移動手段の確保だったが、幸い4人の子供が同じ市内に住んでいて、外出する時は交代で送り迎えをしてくれるし、彼らの都合がつかない時は地域の高齢者支援センターに連絡すれば送迎してくれるのでほとんど問題ないと話した。

そのおかげで彼女は車を運転していた頃と同じようにダンスを教え、様々なイベントにも積極的に参加して、102歳で亡くなるまで自分らしく充実した毎日を送ったと、筆者は後でシニアセンターのスタッフから聞いた。

このように運転をやめても他の移動手段を確保できれば自立した生活を維持できるので、自分と他人の命を危険にさらしてまでも無理して運転を続ける必要はないのである。

日本では高齢ドライバーによる他人を巻き込む重大事故が後を絶たない。政府は事態を重くみて、今年6月にアクセルとブレーキを踏み間違えた際の加速を抑える装置の導入などを含む、「交通安全緊急対策」を閣議決定した。

しかし、本当に必要なのはすべての高齢ドライバーが加齢による身体機能の低下と運転への影響をよく認識し、「いつ運転をやめるか」の適切な判断ができるようにするための家族と地域による支援体制の構築ではないかと、今回の取材を通して筆者は強く感じた。