重症化させないために

東京都大田区で在宅診療専門の「たかせクリニック」を開業している高瀬義昌院長は、病院などに通えない患者のために月2回定期的に自宅を訪問している。もともとは小児科医だという高瀬院長だが、現在は高齢患者が多く、毎年夏になると、熱中症の診療に追われるという。

寝たきりの101歳のおばあちゃんが熱中症になった時は、同居していた娘さんは最初気がつかなかった。38度くらいの熱が出たので風邪かなと思ったというが、診察した高瀬院長は高齢者に多くみられるナトリウム欠乏による脱水の熱中症を疑った。

熱中症による脱水には水分欠乏症とナトリウム欠乏症があるが、後者は対応が難しい。前者は早い段階で水を飲めば症状は改善されることが多いが、後者はナトリウムが減った状況で水分だけを補給すると、改善されるどころか重症化しかねない。血液中のナトリウムの濃度が下がると、体温調節や呼吸など生命維持にとって重要な機能が低下する危険性があるからだ。実際、おばあちゃんは肺炎になりかかっていたが、高瀬院長が早い段階で異変に気づき、ナトリウム入りの点滴を投与したので入院しなくて済んだという。

ナトリウムを補給するには点滴でなくても、経口補水液(ORS: Oral Rehydration Solution)を飲んでも良い。所ジョージのCMでおなじみの「OS-1(オーエスワン)」(大塚製薬)だが、これは脱水の時、体から失われた水分と塩分をすみやかに吸収できるようにナトリウムとブドウ糖の濃度を調整した飲料である。ORSは1970年代に発展途上国での乳幼児のコレラなどによる脱水症の治療のために、WHO(世界保健機関)によって開発された。コレラにかかると、水分・養分を吸収する腸絨毛の機能が低下して激しい下痢になるが、ORSを体に入れると、その機能のスイッチが入るのだという。ORSはダメージを受けた臓器にすみやかに吸収されるように調整されているため、「飲む点滴」とも呼ばれている。

熱中症はいくら気をつけてもなってしまうことはある。実は高瀬院長も一昨年夏、マンションの8階に住む患者を訪問した時、熱中症になってしまった。その日は午前中から猛暑だったが、蒸し暑いエレベーターで8階へ上がり、患者の部屋のドアを開けた途端、クラッときた。体温を測ると38.5度あった。部屋には古いエアコンがあったが効き目が悪かったので、高瀬院長はエレベーターで下へ降りて、車の中でエアコンを最大にして体を冷やした。それから自宅へ戻り、OS-1を3本飲んで1時間半ほど休んだ。すると体温が36.5度に戻り、血液検査も異常なかったので、午後3時から仕事に戻ったそうだ。熱中症も早く気づいて適切に対処すれば、治りも早いのである。

高瀬院長は10年近く在宅診療を行っていて熱中症になったのは初めてというが、その日は猛暑だった上に、朝コーヒー1杯しか飲まずに出かけたのが良くなかったのではないかと反省したという。

熱中症は自己管理で予防できる

高瀬院長が訪問する高齢患者の中には、暑い日にエアコンや扇風機をつけず、窓を閉め切って蒸し風呂状態で過ごしている人が少なくないという。そういう人たちには部屋の換気を良くして涼しく過ごし、食事をきちんと摂り、適度な運動をして、こまめに水分と塩分を補給することが熱中症の予防になると丁寧に教えている。

「みまーも」主催の「熱中症を予防しよう!」セミナーには地域の高齢者など約120名が集まった

「教えて!『かくれ脱水』委員会」の委員も務める高瀬院長は、熱中症の予防啓発に積極的に取り組んでいる。去る6月13日には大田区内で行われた「みまーも」主催の地域づくりセミナー「熱中症を予防しよう!」で講演した。「みまーも」は、大田区内の医療・高齢者福祉に携わる専門職が中心となり、「いくつになっても安心して暮らし続ける町づくり」を合言葉に、約8年前に組織した「おおた高齢者見守りネットワーク」の愛称である。

「みまーも」では定期的に高齢者の健康、QOL、生きがい、つながりなどをテーマにセミナーを開催している。今回私は久しぶりに参加したが、脱水状態を早く見分ける方法や予防法など熱中症について多くのことを学んだ。

熱中症の前段階である脱水状態は特に高齢者にとっては気づきにくいが、早めに見分ける方法はある。ポイントは脇の下、爪の色、皮膚、舌の色などだ。脇の下は通常湿っているが、脱水状態になると乾いてくるので触って確かめてみる。また、指の爪を押した後、色が白色からピンク色に戻るまで3秒以上かかったり、皮膚をつねってその手を離した時にシワがそのままに残っていたり、口の中をみて舌が白くなっていたり、亀裂があったりしたら、脱水の可能性がある。これらの異常に気づいたら、涼しい場所に移動し、衣類をゆるめて体に水をかけたり、濡れタオルをあてたり、扇いだりして体温を下げる。太い血管のある脇の下、首、足の付け根、股の間などを重点的に冷やすと良い。そして水分と塩分を補給することだ。

最後に脱水にならないようにするための基本的な予防法だが、きちんと水分を摂り、体温が上がり過ぎないように涼しい所にいれば熱中症は予防できるというのが、多くの専門家の一致した意見である。