「早く死にたい」というのが本音

2014年9月28日のNHKスペシャルは「老後漂流社会“老後破産”の現実」と題し、生活保護基準以下の年金収入で暮らしている独居老人が300万人もいると報じた。そのうち生活保護を受けている人は70万人程で、残りの200万人余りは受けずに暮らし、貯蓄もなく、ギリギリの生活を続ける中で、“破産”寸前の状況に追い込まれているというのだ。

番組は何人かの独居老人を取り上げたが、特に悲惨だったのは東京都港区に住む田代孝さん(83歳)のケースだ。田代さんはビール会社の正社員として23年間働いた後、40代半ばで独立し、飲食店を経営した。しかし、赤字が続いて倒産し、貯金もなくなった。年金の受給額は月10万円ほどだが、アパートの家賃を払うと、4万円しか残らない。1日500円以下の切り詰めた生活を続けてきたが、電気代を払えなくなり、電気を止められてしまった。

エアコンが使えないので、暑い日が続いた8月には朝早くから夕方まで地域の高齢者交流施設で過ごした。体調を崩し、頭痛がひどくても病院へは行かず、買い置きしていた市販の頭痛薬でなんとか我慢した。夜は電気のつかない真っ暗なアパートへ戻る。ガスの炎の明るさを頼りに冷や麦をつくり、1人で食べる。節約のため十分に食事も摂れない生活が続き、数日間は冷や麦しか食べていないという。これでは栄養不足で病気になってしまうのではないかと、私は番組を見ながら心配になった。憲法第25条で保障されているはずの「健康で文化的な最低限度の生活」とは程遠い状況だ。

田代さんは仕事一筋で結婚しなかったため、頼る家族はいない。訪ねてくる人もいないし、緊急の事態に見舞われても頼れる人はいない。かつては社交的だったが、今の貧しい生活を知られたくないといつしか人付き合いを避けるようになったという。

絵が趣味の田代さんはかつて自分の老後の姿を想像して自画像を描いたが、そのフレームの中には黒い背広を着て口髭をはやした老紳士の姿があった。社長になる自分を思い描いていたそうだが、現実とのギャップに「まさか、こんなになるとは夢にも思わないもんねぇ」と自嘲気味につぶやいた。

これからどうやって暮らしていけば良いのか全く先が見えない中で、田代さんは声を絞り出すように話した。
「もうやることやったんだから、早く死にてえな。まさか自殺するわけにもいかないけど、早く死にたいというのが本音ですよね。まあ、苦しみや今の不安がなくなる。不安をなくすためには死んだほうがいいなぁ…」。

最後まで暗くて落ち込んでしまう内容のレポートだったが、せめてもの救いはその後、港区の相談員の支援で、田代さんが生活費の不足分を生活保護で受け取れるようになったことである。

番組によれば、港区では独居老人の家に相談員を派遣して貧困の実態の把握に努めているが、他の自治体ではあまり行なわれていない。したがって、全国的には老後破産の実態はほとんど把握されていないのが現状だという。