大切なのは収入、貯蓄、頼れる人

藤田孝典さんは生活保護基準相当で暮らす高齢者、およびその恐れのある高齢者を「下流老人」と定義し、その実情や社会的背景、さらに貧困に対する自己防衛策などを提示した同名の著書を出版した。

藤田さんの試算では、下流老人は全国に600〜700万人もいて、激増中だという。実際、下流老人は至る所に存在する。例えば、日に1度しか食事を摂れず、スーパーで見切り品の惣菜だけを持ってレジに並ぶ人、生活苦から万引きを犯し、店員や警察官に叱責される人、医療費が払えないため、病院へ行かずに市販薬で痛みをごまかす人…などだ。

藤田さんは下流老人の指標として、収入が著しく少ない、十分な貯蓄がない、頼れる人がいないという、3つの「ない」をあげる。老後の備えが不十分だという人が増え、高齢者の貧困率が高まっている状況は次のデータによっても示されている。

内閣府の「平成26年版高齢社会白書」によれば、高齢期への経済的な備えがあると感じている人の割合は23.3%にすぎず、圧倒的多数の66.9%の人は「足りない」と感じているという。また、「平成22年版男女共同参画白書」では、65歳以上の相対的貧困率は22%だが、高齢男性のみの世帯では38.3%、高齢女性のみの世帯では52.3%に及ぶことがわかった。つまり、単身高齢男性の4割近く、単身高齢女性の5割以上が貧困下で暮らしているということだ。

さらに恐ろしいことに、藤田さんの試算では年収400万円の人でも高齢期にはギリギリの生活を強いられ、下流老人になるリスクが高いという。年収400万円だと、現在年金を受給している世代は15万円くらいもらえるが、30代の人が受給する頃には13万5千円くらいになると予想される。この額は首都圏の生活保護基準とほぼ同じ水準である。400万円というのは普通のサラリーマンの平均年収に近いが、中小零細企業の場合はもっと少なく、当然受け取る年金の額も少なくなる。

下流老人とは「あらゆるセーフティネットを失った状態」と言える。収入が少なくても十分な貯蓄があれば問題ないし、また十分な収入や貯蓄がなくても家族の支援があれば問題なく暮らしていけるだろう。昔は年金収入が生活保護基準以下でも、家族の助けが得られたので、幸せな老後を送る人は少なくなかった。しかし、最近は高齢の親と子どもとの同居率が著しく低下し、また若者の非正規雇用やワーキングプアが激増する中で、親は自分の子どもに面倒をみてもらうことをほとんど期待できなくなっている。

藤田さんは著書の中で、「“一億総老後崩壊”の時代がやってきた。これからの日本社会に、もはや中流は存在しない。いるのは“ごく一握りの富裕層”と“大多数の貧困層”の2つであろう。私たちは全員が緩やかに、しかし確実に貧困に足を踏み入れている」と警鐘を鳴らす。

それでは、私たちは「老後崩壊」に陥らないためにどうしたら良いのか。次回は個人でできる自己防衛策と、政府がやるべき貧困対策について提案する。