前回に引き続き高齢者の貧困問題を取り上げるが、今回は「老後破産」に追い込まれないようにするために個人としてどのような備えをしたら良いのか、また、政府はどんな貧困対策を講じるべきかを提案する。

個人でできる防衛策

藤田孝典さんは著書『下流老人』の中で、「生活保護制度の仕組みをよく理解することが下流化を防ぐ第一歩である」と述べているが、日頃からこの制度をよく理解しておくことが大切だ。特に年金があったり、家や車などを持っていたりすると、生活保護がもらえないと誤解している人が少なくないからである。

生活保護を申請すると、役所(福祉課)の職員が生活状況を把握するために預貯金、保険、不動産などの資産調査、就労の可能性の調査、扶養義務者による扶養の可否の調査などを行う。その際、申請者が家や車を所有していても、生活に利用しているのであれば生活保護を受給できることになっている。しかし、生活保護の受給者が増える中で、役所は様々な手を使って申請を抑制しようとしている。実際、保護申請の受理を審査もしないで拒否する“水際作戦”などと呼ばれるものが行なわれ、問題となっている。

以前、藤田さんの所に相談に来た人は役所で生活保護を申請しようとしたら、「家を売ってから来なさい」と追い返されてしまった。そこで藤田さんが一緒に付き添ったら、問題なく申請できた。藤田さんは窓口で、「この人は以前、“家を売ってから来なさい”と言われたそうですが、そういうことをするのは違法ですよね」と言うと、その職員は、「そういうことは言ってないと思いますが…」と他の職員をかばうように答えたという。

少なくとも役所の職員は、それは違法だということを知っている。だから社会福祉士や司法書士、NPOのスタッフなどが申請者に同行すると、職員の態度が変わり、嫌がらせや不正行為が少なくなるのであろう。

生活保護の「水際作戦」中止を求める反貧困ネットワーク

藤田さんは言う。
「日本人はなぜか公務員に良いイメージを持っていて、役人は嘘をつかないと思っている人が少なくない。だから、“役人が申請できないというなら、間違いないだろう”とあきらめてしまい、結果的に自分を追い詰めてしまう。死ななくてもいいのに、もう少し早く連絡してくれれば何とかなったのにというケースは何件もあります」。

政府は生活保護制度をよく理解してもらうための啓発活動には消極的だが、一方で不正受給の問題は大げさに取り上げる。中には生活保護の不正受給対策の一環として、警察官OB等を福祉課の窓口に配置している自治体もあるという。

厚生労働省の調べでは、生活保護費の不正受給額(2010年度)は約128億円で全体の0.38%を占めるという。生活状況や資産状況を偽って申請したり、受給者が他の収入をごまかしたりという不正受給は厳しく取り締まるのは当然のことだ。どこの国でも不正受給は一定の割合で存在するので、それを想定した防止策や罰則強化策などを取っている。しかし、不正受給を理由に生活保護の申請を抑制しようというのはとんでもないことだ。

また、政府の“プロパガンダ”に乗って、生活保護の受給者を「怠け者だ」「自業自得だ」などと言う人がいるが、少し想像力を働かせてほしい。そういう自分もいつ生活保護が必要な状況に追い込まれるかわからないのである。

筆者が以前取材した米国人のホームレス支援活動家が興味深いことを言っていた。「日本人はまじめすぎるのかもしれません。でも、勤勉な人ほど貧困者や生活保護受給者などを怠け者とみなし、許せなかったりするのです」と。

彼は5年ほど前に日本を訪れた時、一生懸命働く日本人の勤勉さに驚き、賞賛した。が、一方で、「このような社会では貧困者は怠け者とみなされ、十分な支援を受けられないのではないか」と不安になったという。最近の生活保護バッシングを見ると、残念ながら彼の不安は的中してしまったように思える。

実際、生活保護を受給していることがわかった途端に友人が離れていったり、人間関係が壊れてしまったりというケースは起きているようだ。生活保護の受給者をよってたかって袋叩きにするのは行き過ぎではないかと思う。

米国でもリーマンショック以降、生活保護の受給者は増えているが、彼らがバッシングを受けるということは聞いたことがない。もちろん不正受給に対しては政府が厳しく対応しているので、それを理由に受給が抑制されることもない。米国人の受給者を取材して特に印象的だったのは、「生活保護を受給するのは自分の権利である」と考え、堂々としていたことだ。常に負い目を感じながら、びくびくしている日本の受給者との大きな違いだ。

生活困窮者への相談支援活動を行っている藤田孝典さん(写真中央)

藤田さんは、「生活保護を利用するのに負い目を感じる必要はない。人様の世話にならないことが美徳だと思っている人はその意識を変えてほしい」と訴える。

生活困窮者にとっては他にもよく知っておくと役立つ制度がいろいろある。例えば、彼らは病気になってもなかなか病院へ行けないが、「無料低額診療施設」として登録された病院で受診すれば無料か低額で診療してもらえる。これは社会福祉法で位置づけられた支援事業であり、無料低額診療施設は全国に存在する。そこへ駈け込めばお金がなくても診療してくれるし、病院の医療相談室には社会福祉士がいるので生活保護の相談もできる。藤田さんによれば、病院の関係者から生活保護申請の連絡が役所にいくと、すんなり通ることが多いという。このような便利な制度があるのに多くの人はそのことを知らない。