生活保護と年金制度の見直しを

次に老後破産を防ぐために政府がやるべきことについて考えてみよう。まずは生活保護制度の見直しについて2点ほど提案したい。

1つは申請者の親族に対して行われる扶養の可否の照会だが、これは見直した方がよいのではないかと思う。役所から親族に連絡がいくことを怖れて申請をためらう人が少なくないからである。他の先進国を見ても、親族に扶養義務を課しているのはイタリアくらいで、米国、英国、オーストラリアなどほとんどの国では受給条件として問われるのは個人の資格だけだ。親族に頼めないから役所に申請に行っているのに、その役所から親族に連絡がいくというのは申請者にとっては耐えられない屈辱であろう。

このような状況を反映し、日本の生活保護の捕捉率は先進国の中で最低レベルにある。2010年の調査では、日本15.3〜18%に対し、フランス91.6%、スウェーデン82%、ドイツ64.6%となっている(日本弁護士連合会の資料より)。日本では生活保護を利用する資格があるにもかかわらず、「恥ずかしい」などの理由で受給しない人が圧倒的に多いのである。

2つ目は「生活保護制度の分離論」をめぐる提案である。生活保護は生活、住宅、医療、教育、介護、生業、出産、葬祭の8つの扶助からなるが、このうちいくつかの重要な扶助を分離して、手当として支給したらどうかということだ。例えば、住宅手当、教育手当、医療手当などというように。

貧困にあえぐ下流老人の多くが「年金のほとんどが家賃で消えてしまう」と不満を漏らしているが、民間賃貸住宅の家賃補助制度の一刻も早い導入が求められている。日本には低所得者向けの公営住宅はあるが、圧倒的に数が足りない。そのため、低所得者層の多くは仕方なく民間賃貸住宅に住み、「家賃を払ったら手元にお金がほとんど残らない」という状況に追い込まれている。家賃補助があればなんとか暮らしていける、という下流老人は少なくないのである。

欧州のほとんどの国では低所得者層向けの家賃補助を社会保障の中で制度化している。また、米国でも貧しい高齢者は無料か低家賃で住める「セクション8」と呼ばれる家賃補助プログラムがある。日本では住宅扶助が生活保護に含まれているが、負い目などから申請をためらう人が多い。そのため、分離して住宅手当として支給した方が制度として使いやすいのではないかと思われる。

最後に提案したいのは年金制度の見直しである。国民年金は40年間納付しても毎月の支給額はわずか6万円強だが、そもそもこれは50年以上前の高度成長期に作られた制度だ。当時は子どもや孫と同居するのが当たり前の時代で、高齢の親は子どもに面倒をみてもらうことを期待できた。だから、低年金でも「老後破産」に陥ることなく生活できたのである。しかし、子どもに面倒をみてもらうことがほとんど期待できなくなったいま、国民年金に代わる新しい制度が求められているのではないか。

若年層の雇用の不安定やワーキングプアの増加などによって年金の未加入者が増え、国民年金保険料の納付率は著しく低下している。今の若年層が高齢期に達する頃は、無年金や低年金の人が現在よりはるかに増大するだろう。そう考えると、現役時代の収入に関係なく全ての人に最低限の老後の生活資金を保障する制度が将来的には必要になってくるように思う。

かつて民主党政権が消費税を財源にして全ての人に老後の生活資金として月額7万円を保障する最低保障年金の創設を提案したが、いつの間にか頓挫してしまった。この民主党案の問題点も踏まえつつ、政府は新しい社会保障制度づくりに取り組むべきではないかと思う。

若者のワーキングプア対策

高齢者の貧困問題は若年層の貧困問題とも密接に関係しているので、両方の対策を同時に進めなければならない。若者のワーキングプア増加は高齢の親の面倒をみる経済力を奪うだけでなく、彼ら自身が親に寄りかかることで親の下流化の原因にもなってしまう。

2013年の厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によれば、非正規労働者の生涯賃金(20〜64歳まで)は約1億2104万円で、正規労働者(約2億2432万円)のおよそ半分となっている。

欧州では、非正規雇用の待遇差別が格差拡大の大きな原因になるとして、早くから対策を講じてきた。例えば、EUは1997年に非正規社員に正社員と同等の賃金・社会保険などを与えるように求める指令を出している。

非正規社員の割合が非常に高いオランダでは1990年代後半、派遣社員の待遇差別が大きな社会問題となった。そこで政府が指導力を発揮し、企業に対して非正規社員に正社員と同一の賃金、社会保険、職業訓練などの提供を義務づける法律を制定した。これによって全労働者の約半数を占める非正規社員は正社員の平均95%の賃金を得て、失業給付を受け、職業訓練所に通い、技能を身につけて正社員を目指すことも可能となった。オランダでは毎年、派遣社員の約3割は正社員として雇用されているという。

日本では非正規社員の賃金は正社員の平均半分程度に抑えられ、非正規社員の多くは失業保険や年金などに加入できない状況だ。OECDは2006年に日本に対し、「所得の二極分化を防ぐために非正規社員の賃金・待遇差別問題に取り組むべきだ」と提言したが、効果的な対策がほとんど取られないまま現在に至っている。

非正規雇用やブラック企業などで待遇差別を受けている若年層が高齢期を迎える頃には、「老後破産」は今よりずっと深刻な状況になっているだろう。

藤田さんの『下流老人』は元々、生活苦やその不安を抱える50代、60代に向けて書かれたものだが、実は20代、30代くらいにも結構読まれているという。非正規雇用で年金に加入できなかったり、加入していても低年金なので老後の生活が心配だったりという人たちが読んでいるらしい。

2012年版のOECDの調査をみると、日本の相対的貧困率は16.1%で、OECD加盟34カ国の中で6番目に高い。日本の貧困率は十数年前から深刻な状況だったが、政府はずっと対策を怠ってきた。今こそ高齢者と若者の貧困問題を再優先課題に据え、非正規雇用の均等待遇の実現や生活保護制度の見直し、新たな最低保障年金の創設などに取り組むべきである。