政府、NPO、メディアが協力

AUKの支援サービスは、バーバラさんやジョイさんのように深刻な孤立問題を抱える高齢者にとって生命線となっている。ボランティアと話をした高齢者が孤立以外の問題も抱えていることがわかれば、AUKは他の支援を提供することもできる。

AUKは英国内に170カ所の支部を持つ大規模なNPO団体である。高齢者の孤立問題の他、年金、介護、住宅、雇用などに関する支援も行っている。AUKの運営は主にボランティアと寄付などで支えられているが、人々に協力支援を呼びかけるためのディナーパーティやマラソン大会、サイクリング大会、映画鑑賞会などのイベントを実施している。

英国ではAUKの他にも、「フレンズ・オブ・エルダリー」(高齢者の友人の意味)、「シルバー・ヘルプライン」「インディペンデント・エイジ」など、高齢者向けの支援団体が多数存在する。メディアの多くはこれらの団体の活動を好意的に報じている。それが人々の高齢者問題への関心を高め、寄付やボランティアなどを積極的に行うことにつながっているようだ。

フレンズ・オブ・エルダリーは2014年6月、「高齢者の孤立防止週間キャンペーン」を実施し、「寂しい生活をしている高齢者に電話したり、自宅を訪問したりして友人になろう」と人々に呼びかけた。これはガーディアン紙など主要メディアでも大きく取り上げられたこともあり、大成功に終わったという。

英国政府も補助金と政策の両面から、NPOの活動を支援している。英国雇用年金省(DWP)は、深刻な孤立問題を抱えた高齢者を支援するために年間約100万ポンド(約1億9400万円)の補助金を計上し、約30の団体に配布している。

DWPはお金を出すだけでなく、NPO団体と協力してハイキング大会、ダンス大会、健康ダイエットワークショップ、朝のコーヒータイム、クイズ大会、日帰り旅行など、高齢者の交流を促進し、孤立を防止する支援プログラムの企画にも携わっている。

DWPのスティーブ・ウェブ大臣はこう話す。
「寿命が延びて老後の生活が長くなるにつれ、高齢者の社会的孤立が重要課題になってきました。政府やNPO、地域社会などが協力して対応することで、高齢者の健康や生活の質に好影響を与えることが可能となるのです」。

当コラムではこれまで政府やNPO、地域社会などが協力し、社会全体で高齢者の孤立を防止しようとする米国の取り組みを多く紹介したが、その点は英国も共通しているようだ。 

「寂しさは高齢者の健康リスクを高める」との調査結果を発表したシカゴ大学のジョン・カシオポ博士

寂しさは健康リスクを高める

英国や米国が高齢者の孤立問題に積極的に取り組んでいる背景には、孤立が健康リスクや死亡リスクを高めるということもあるようだ。

シカゴ大学のジョン・カシオポ心理学博士は2014年2月、「寂しさは高齢者の健康に重大な悪影響をもたらす」との報告書を発表した。50歳以上の高齢者2000人を対象に6年間追跡調査をした結果、社会的に孤立し、孤独感を抱えている人は早期死亡のリスクが約14%高くなることがわかったという。この結果は、高齢者の社会的孤立問題が深刻な英国でも、ガーディアン紙など主要メディアによって大きく報じられた。

カシオポ博士は2011年には、「寂しさは高血圧、うつ病、免疫力低下、心臓発作、脳卒中などの発症リスクを高める」との調査結果を発表している。なぜそうなるのかといえば、例えば、寂しさは副腎皮質ホルモンの一種であるコルチゾールのレベルや血管抵抗を高め、それが高血圧につながる。また、人は寂しいと感じると免疫機能が低下し、ウィルス・細菌が体内に侵入しやすくなるが、逆に社会的なつながりができると免疫機能は活発になるという。

さらに同博士によれば、人は寂しいと感じると、脳が目に見えない社会的脅威に対する警戒感を強くし、他の人にネガティブな態度を取ったりするが、逆に強いつながりを持っている人は安心して他人に接することができ、親切で寛大になれる。なぜなら誰かが自分を守ってくれると考え、安心できるからだという。

カシオポ博士は、これらの調査結果を踏まえてこう述べた。
「リタイアしたら、それまでの人間関係を全て捨て、新しい場所で新生活を始めるという考えは見直した方が良いかもしれません。友人や家族と離れ、温暖な気候のフロリダ州に家を購入して幸せに暮らすといった生活は、必ずしもベストとは言えないからです。リタイア後も現役時代の同僚や友人などと交流を続けている人の方が、寂しさを感じることが少ないことが調査でわかりました」。

カシオポ博士は、「ベビーブーマー世代がリタイア期を迎えたことでシニアの数が激増し、世界は“シルバーツナミ”に襲われているような状況です。高齢の人たちはうつ病、健康被害、早死などから自分を守ることを真剣に考えなければなりません」と警鐘を鳴らす。

寂しさは高齢者の健康やQOLに重大な悪影響をもたらす。だからこそ高齢者自身がそのことを認識し、そうならないように努め、同時に政府やNPO、地域社会などが協力して対策を講じることが大切なのだ。

カトリック教会の修道女として献身的な奉仕活動を行い、世界中の人々から尊敬されたマザー・テレサはかつてこう言った。
「今日の最大の病はがんでも、ハンセン病でも、結核でもありません。誰からも必要とされず、気にも留めてもらえず、全ての人から見捨てられているという寂しさ(孤独感)です」と。

この深刻な病がいま、多くの高齢者を襲っているのである。