山崎健介弁護士
山崎健介弁護士(©ノーサイド法律事務所のHPより)

昔は死について話したり、死後の準備をしたりするのは「縁起が悪い」とタブー視されたが、最近は状況が変わった。「人生の終焉に向けて行なう活動」という意味で、「終活」が流行語にもなっている。遺された家族が困らないように、また自分の想いを最後まで実現するために元気なうちから準備をする人が増えてきたのだ。そこで今回は遺された家族が相続で揉めないための準備、法律的に有効な遺言書の作成方法、元気なうちから備える任意後見などについて考えてみよう。

相続で揉めないために

元気なうちに自分の財産を誰にどれだけ渡すのかを遺言に書いておけば、遺産相続はうまくいくと考えがちである。しかし、それでも遺された家族の間で揉めるケースは少なくないという。

遺産相続や債務処理などを得意分野とするノーサイド法律事務所(東京都港区)代表の山崎健介弁護士は、次のような事例について話してくれた。

高齢女性のAさんにはあまり仲の良くない5人の息子がいるが、自分の死後、揉めて欲しくないので、できるだけ5人に平等になるように考えて遺言書を作った。そして、Aさんは息子たちに見守られて亡くなった。遺言はきちんと作成されていたにもかかわらず、Aさんが亡くなると、5人はすぐに言い争いを始めた。

長男が「俺が同居して母さんの面倒を見たのに、5人で平等というのは許せない。俺が苦労したんだから、ちょっと多くくれ」と言うと、次男は「兄貴はずっと私立の学校だったし、二浪して大学へ通わせてもらって迷惑かけたんだから、当然だ」と反発した。さらに他の3人も「俺の取り分は田舎の土地だけど、そんなの売っても全然価値がないじゃないか。何が平等だ」(三男)、「僕はずっと海外にいるから分割のこととか手伝えないけど、財産はちゃんと分けて欲しいよね」(四男)、「兄貴たちは嫌いだから正直どうでも良いんだけど、妻がちゃんと自分の分はもらえって言うんだよね」(五男)などと、それぞれに好き勝手なことを言い出して収拾がつかなくなった。

まさにAさんが心配した通りになってしまったが、遺言書を作っただけでは十分ではなかったのか。

山崎弁護士はこう説明する。
「遺言は財産をどう分けるかを決めておくことはできますが、他にも誰がどういう方法で分けるかなど難しい問題があります。例えば、財産が現金だけなら5等分すれば良いですが、不動産を分ける場合は5人で共有して等分するのか、または売却してお金にするのかなど悩ましいところです。その手続きを誰がやるのかもわかりません」。

では、こうした場合はどうしたら良いのか。山崎弁護士が勧めるのは、予め遺言執行者を決めて遺言書に入れておく方法である。つまり、「遺言通りに財産を分ける手続きをこの人にお願いします」ということを書いておく。そして、不動産は遺言執行者に売却してもらって代金を分けるとか、銀行との手続きは全て執行者にやってもらうようにするなどを決めておけば良い。そうすれば、「執行人の言うことだからしようがない」と相続人も納得することが多いという。

遺言執行者は基本的に誰でもなれるが、利害関係のある人だと、「なんであいつが…」「ごまかしているんじゃないか…」などとなりかねない。従って、できれば第三者で事情がわかっている人や弁護士などが適任だという。

遺産分割で揉めると、預貯金がおろせなくなったり、相続税の控除(配偶者の税額減税など)が使えなくなったり様々な不利益を被る可能性がある。しかも、家庭裁判所の調停が長引けば弁護士費用も嵩み、結果的に全ての相続者が損をすることになる。揉める原因として最も多いのは相続人同士のコミュニケーション不足だというが、日頃から仲の良くない兄弟同士などは揉める可能性が非常に高いということになる。

山崎弁護士が次に挙げたのは、内容の異なる複数の遺言書が出てきたケースである。高齢女性のBさんは遺言が大事だとテレビで見たので、毎年元旦に自分の死後のことを書いてタンスにしまっておいた。そのため、Bさんが亡くなった後、長男(55歳)、長女(51歳)、次女(45歳)に宛てた違う内容の遺言書が出てきた。長男には「私の家と貯金は後継ぎの長男に全部渡す」と、長女には「私の財産はみんなで等分に分けてください」と、次女には「同居の次女に土地と建物を」と書かれてあった。はたしてどの遺言が法律的に有効なのか。この場合は、3つの遺言に日付が入っていれば一番新しい日付のものが有効となる。

誰がどれだけ相続するのか

相続分の割合に関しては、遺言があるかないかによって大きく分けられる。遺言がない場合は法定相続人が相続するが、具体的には配偶者、子ども(又は孫)、父母(又は祖父母)、兄弟姉妹の優先順位となる。被相続人に配偶者や子どもがいない場合は父母が相続し、さらに配偶者や子ども、父母がいない場合は兄弟姉妹が相続する。

相続分の割合については法定相続人の間で遺産分割協議が行なわれ、そこで話がまとまればその通りに分配されるが、まとまらない場合は法律が定める相続分に従って分配される。相続人が配偶者だけの場合はその人が全て相続し、配偶者と子どもの場合は配偶者が半分、残りは子ども(複数の場合は等分する)が相続する。さらに配偶者と父母の場合は配偶者が3分の2、父母が3分の1を、配偶者と兄弟姉妹の場合は配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1を相続する。