一方、遺言がある場合は、基本的にその通りに財産は分配される。但し、相続人の「遺留分」が考慮されるため、遺言通りにならないこともある。遺留分とは、遺言に優先して法定相続人に留保された相続財産の割合である。

例えば、3人の子どもを持つ高齢の母親が「財産は全て長男に相続させる」という遺言を作った後、亡くなった。この場合、遺言通りだと、次男と長女は財産を相続できないことになる。しかし、2人には遺留分を相続する権利があるため、本来の相続分(3分の1)の半分にあたる6分の1を相続できる。このように遺言で相続の割合は自由に設定できるが、相続人の遺留分には注意しなければならない。

最後に、法定相続人が誰もいない高齢男性が遺言を残さないまま亡くなってしまったケースについて考えてみよう。男性は土地と貯金をたくさん持っていたが生涯独身で、親も子どもも兄弟もいない。住み込みのお手伝いCさんには10年間お世話になったが、彼女に遺言は遺さなかった。一般的に法律上の相続人がいない場合は、全ての財産は国にいってしまう。そこでCさんは、「国に没収されるくらいなら、一生懸命お世話した私が少しくらいもらってもいいのではないか」と考えた。

法定相続人ではないCさんが、はたして財産の一部を譲り受ける方法はあるのか。山崎弁護士によれば、特別縁故者という制度を使えば可能ではないかという。相続人以外の者で被相続人と生計を同じくしていたとか特別の縁故関係あった者のことだが、相続人がいない場合は特別縁故者にも相続の権利が認められる。基本的に報酬を受けて働くお手伝いさんは除外されるが、対価以上のお世話をしていた場合は特別縁故者として認められる可能性はあるという。

遺言書の正しい書き方

遺言書は大きく分けて3つある。1つは全文を自分で書く自筆証書遺言で、一般的に多く使われているものだ。書いた後は紛失しないように気をつけて保管しなければならない。2つ目は公証役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言。これは遺言の内容を公証人にチェックしてもらった上で作るので、安全で確実な方法である。3つ目は遺言の内容を秘密にしたまま、その存在のみを公証人に証明してもらう秘密証書遺言だが、これはあまり使われていないという。

遺言には遺言者の氏名、住所、作成日に加え、誰にどの財産を相続させるかなどを書けば良いだけで、それほど難しいものではない。しかし、法律で定められたことを守らないと無効になってしまう。

例えば、自筆証書遺言書には法的要件が4つある。まず全文が遺言者の自筆でなければならない。従ってパソコンを使って作成し、自分で署名して押印した遺言は無効となってしまう。第2に特定できる日付が記載されていること。何かの案内状を出すような感じで、「平成27年11月吉日」などと書くと、月までわかっても日が特定できないので無効である。第3に遺言者の署名がされていること。第4に遺言者の押印がされていること。ちなみに印鑑の種類については制限されていないので、実印がなければ認印でも問題はない。 

さらに注意しなければならないのは、書き間違えた時の訂正方法である。訂正箇所に二重線を引き、訂正印を押す。それから遺言書の欄外に「○○行目○○文字を○○文字に訂正」と記し、署名する。そうしないと、訂正箇所が無効になるだけでなく、遺言書全体が無効になってしまう。専門家によれば、訂正方法に不安があったり、訂正箇所が多い場合には新たに書き直した方が安全かもしれないという。

元気なうちに備える任意後見

最後は成年後見制度について説明しよう。認知症や知的障害などで判断能力が不十分になった人の生活や財産を守るための成年後見制度には、民法に基づく「法定後見」と、任意後見契約に関する法律に基づく「任意後見」がある。すでに判断能力が低下している「私」に代わり、財産管理などを行う後見人を家庭裁判所が決める方法を「法定後見」といい、将来において「私」の判断能力が低下した時、財産管理などを任せたい人を「私」自身が決めて契約しておく方法を「任意後見」という。

自分が一番信頼している人に財産の管理や身の回りの世話をしてもらいたいと思っても、判断能力が衰えてしまってからでは難しいため、元気なうちにその人を選んで決めておこうというのが「任意後見」である。

後見人が行なう支援(仕事)の内容には、介護保険の利用契約や費用の支払い、年金・保険などの役所の手続き、預貯金・不動産など財産の管理などが含まれる。誰を後見人にするかが決まったら、公証役場へ行き、公証人の立ち合いのもとで任意後見の契約を結ぶ。この契約は本人が元気な間はスタートしない。本人の判断能力が低下してきた時、親族と後見人が家庭裁判所へ行って初めて制度がスタートし、支援が開始される。

また、任意後見人がいい加減な仕事をしたり、自分の利益を優先するようになってしまう可能性はゼロではない。それを防ぐために本人が任意後見の契約を結ぶ時、任意後見者を監督する人(任意後見監督人)を決めておくこともできる。