1978年に米国初の高齢者向け演劇舞踊学校として設立された「ステージブリッジ」では、アクティング(演劇)、プレイライティング(劇作)、ミュージカル、インプロ(即興演劇)、タップダンス、ストーリーテリングなど、30以上の多彩なクラスを提供している。50〜90代の受講生がミュージカルのダンスを踊ったり、シェークスピア劇を演じたり、台本のない即興演劇を披露したり、体験談などをもとにストーリーを作って発表したりして非常に楽しそうだ。
演劇・歌・ダンスなどのパフォーミングアーツは体を動かしながら脳を刺激するので、高齢者の創造力や潜在力を高める効果があると言われているが、カリフォルニア州オークランドにある「ステージブリッジ」(以下、STB)の現場を訪ねた。

STBの歴史やクラス内容について説明するホセ・リベラ事務局長
STBの歴史やクラス内容について説明するホセ・リベラ事務局長

高齢者に対する既成概念を打ち破りたい

STBが設立された1970年代当時は米国でも、「高齢者は創造的である必要はない」と考えられていた。つまり、現役を退いたら、家でテレビをみたり、孫と遊んだり、老人ホームでビンゴゲームをするくらいなので創造性は必要ないとされていたのだ。

しかし、英国の大学院で演劇を学んだスチュアート・カンデル博士はそのような状況に疑問を持ち、高齢者に対する既成概念を打ち破りたいと思った。そして高齢者に演劇・歌・ダンスなどを学ぶ機会を提供することで創造力や潜在力を高めようと考え、STBを設立した。

取材に応じたホセ・リベラ事務局長によれば、STBでは高齢者の心と体を知り抜いた講師が、演劇・ダンスなどのレッスン中に受講者が無理な動きをしてケガをしないように十分配慮している。また、ウォーカーを使わないと歩けないような人が医師や介護士と相談しながら、クラスに参加することもあるという。体の不自由さを乗り越えて、個々の可能性に挑戦することもシニア演劇の目的の1つだ。

可能性と言えば、リタイア後に若い頃の夢に再挑戦した人もいる。元銀行マンの60代後半の男性は若い時に役者を目指して頑張ったが、途中で諦めてしまった。しかし、退職してから若い頃の夢と情熱がよみがえり、STBで演劇やミュージカルのクラスを受講した。それから彼は地元の劇場で舞台演劇デビューを果たし、見事に夢を叶えた。彼の演技は新聞でも高く評価され、その後もずっと舞台出演を続けているという。

リベラ事務局長の説明を受けた後、私はクラスを見学させてもらった。最初にのぞいた「ラジオドラマ」のクラスでは、10人くらいの受講生がニューヨークのブロードウェイで上演されたミュージカルの台本を見ながら練習していた。ラジオドラマとは主に俳優や声優が演じ、ラジオで放送されるドラマだ。受講生は皆マイクなしでも遠くに届く声で、迫真の演技をしている。台詞の合間に他のキャストが太鼓や靴音、馬の鳴き声、拍手、コーラス、ドアをノックする音など、効果音をタイミング良く入れるが、チーム一丸となってドラマを作っている熱気が伝わってきた。

ラジオドラマのクラス

次に見学したのはストーリーテリングのクラス。ストーリーテリングは個々の伝えたい思いや考え、体験談などをもとに物語を作り、発表するというものだ。元新聞記者の女性講師(70歳)がストーリーの作り方、話し方の重要なポイントを説明していた。

「5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どうした)」という原則があるが、最も大切なのは、「何を」の部分だという。それから1人語りか、会話形式かを決めるが、後者の場合は複数の登場人物の声を使い分けなければならない。話し方のポイントとしてはアイコンタクト、顔の表情、声の大きさ、ジェスチャーなどを効果的に使い、聴衆の心をつかむことが大切だという。その後、受講生が1人ずつ前に立ち、事前に作ったストーリーを発表した。

最初の女性は、若者のホームレスについて話した。「ホームレス!」と大きな声でタイトルを言ってから、他の受講生の顔をゆっくり見渡しながら、話し始めた。

「皆さんもご存じかもしれませんが、町の繁華街の○△映画館の前でいつもホームレスのような身なりの若者5、6人がたむろしています。彼らは一体何をしているのか、ずっと気になっていました。そこである日、勇気を振り絞って直接聞いてみることにしました。手作りクッキーを持って出かけ、“エクスキューズ・ミー!家で焼いたクッキーですけど、いかがですか?”と話しかけると、彼らは少し警戒した様子を見せましたが、クッキーを受け取り、私の質問に答えてくれました…」。

そこでわかったのは、彼らは中流家庭の出身だが、親との関係がうまくいかずに家を飛び出し、友人の家に泊まったりしながら、自分の生き方を模索していることだった。そして、ギターを持った少年がガールフレンドのために作ったという曲を披露してくれたという。 

女性の話が終わると、他の受講生は感想を言い、講師は「ギターの少年が歌を披露してくれたのはストーリーの核の部分になるので、歌の1部を歌ってみても良かったのではないか」と助言した。

次に85歳の女性が昔のイタリア旅行について話した。彼女は30代の時に失恋してイタリアへ行き、そこでハンサムなイタリア人男性医師に一目惚れし、「マダム、マダム」と呼ばれてすっかり舞い上がってしまったというが、その体験談をイタリア流のユーモアを交えながら、面白おかしく話した。旅行中の恋の行方がどうなるのかと私も思わずワクワクしてしまい、ストーリーテリングの面白さは十分伝わってきた。