演劇クラスの練習風景
演劇クラスの練習風景

地域の小中学校や老人ホームで実演

ストーリーテリングの受講生は定期的に地域の小中学校や老人ホームなどを訪れ、実演を行っている。人生経験豊かな高齢者の話は小中学生にとって新鮮でためになる、と好評だ。若い時に関わった公民権運動やいじめの加害・被害経験などについて話した人もいたが、生徒たちは真剣に耳を傾けたという。

生徒はストーリーテリングの面白さを学んだ後、自分の祖父母などから話を聞いてストーリーを作り、教室で発表する課題を与えられる。

STBは昨年、ストーリーテリングを実施している小中学校の生徒を対象に、「祖父母のお話コンテスト」を行った。そこで第1位を獲ったのは小学2年の黒人の男の子で、タイトルは「コカ・コーラボトル」だった。

彼の祖母は人種差別が激しい南部で子ども時代を過ごした。当時コカ・コーラがはやっていて、彼女も1度でいいから飲みたいと思ったが、黒人がコーラを販売する店に入ることは許されなかった。それから何年かして、黒人もコーラを買えるようになり、やっと飲むことができた。祖母はその時の感激をずっと忘れず、その後コーラを飲むたびに記憶が蘇ってくるそうだ。最後に孫へのメッセージとして、「決して自分の夢を諦めてはいけない」と話したという。

他に、第二次大戦中に強制収容所に入れられた祖父母の体験について話した日系人の生徒も入賞した。生徒たちは祖父母の過去の体験や家族の歴史などを知ることで、自分がどこからきたのかを理解し、自分自身に誇りを持てるようになる。これは子どもと高齢者の異世代交流の大きなメリットである。

また、ミュージカルやジャズコーラス、インプロ(即興演劇)などの受講生は老人ホームや介護施設などを訪れ、実演をしている。入居者は自分とほぼ同世代の人が歌ったり、踊ったり、演じたりしているのを見て、「これはすごい!」と大きな拍手をしてくれる。それは認知症患者でも例外ではない。ある老人ホームでミュージカルをやった時、ショーが始まる前まで、ステージに向かって大声で怒鳴ったり、怒ったりしていた認知症患者がいったん始まると、笑顔になり、手をたたきながら一緒に歌ったりしたという。

ピアノの伴奏に合わせて歌って踊る女性
ピアノの伴奏に合わせて歌って踊る女性

シニア演劇の健康効果

シニア演劇の特徴は体を元気にするだけでなく、脳の働きも活発にすることだ。
特に演劇やストーリーテリングでは役作りをしたり、話の構成を考えたりと、家にいてもそのことを考え、頭を使っている。それが新たな生きがいにもなってくる。

シニア演劇は認知症やアルツハイマー病の進行を遅らせたり、発症を抑止したりする効果があると言われている。認知症になると記憶の機能は衰えるが、一方で物事を感じたり、表現したりする機能は高まるという。だから、先述した認知症患者のようにミュージカルを観て感激し、笑顔で一緒に歌ったりするのではないかと思われる。

演劇のレッスンが高齢者の認識機能に与える影響を数字で示した調査結果がある。イリノイ州にあるエルムハースト大学のトニー・ノティス教授(劇場学)は、演劇を4週間受講した高齢者122人を対象に認識機能に関する調査を行った。その結果、記憶力テストで19%、理解力テストで37%、創造力テストで12%、それぞれ向上したことがわかった。

この調査は2008年の『エイジング・神経心理学・認識・ジャーナル』誌に掲載されたが、ノティス博士はこう述べている。
「認識機能を向上させる最良の方法は、常に新しいことに挑戦することです。高齢者は演劇を通して、“人生って面白い!楽しい!”と再認識できます」。

STBのクラスは通常3~6ヵ月で終了するが、いったん終えても他のクラスを受講し、長く続けている受講生は少なくない。彼らが口を揃えて言うのは、「面白いからやめられない」ということだ。

STBはこの分野のパイオニア的存在だが、シニア演劇は今や全米中に広まっている。特に注目すべきは、シニア演劇プログラムを導入する老人ホームや介護施設などが増えていることだ。私が取材した時も、演劇プログラムの導入を検討しているという介護施設の女性マネジャーが、東部マサチューセッツ州から飛行機で6時間もかけてSTBに見学に来ていた。彼女はストーリーテリングなどのクラスを見学しながら、納得した表情を浮かべていた。