当コラムで以前、貧困にあえぐ下流老人を取り上げたが、今回は日本の悲惨な状況は海外と比べてどうなのかを考えてみたい。「貧困大国」と呼ばれる米国でも当然下流老人は多いが、日本のように生活苦の不安やストレスなどからうつ病になったり、自殺したり、家賃が払えずに窃盗・強盗に走ったりということは起きていないようだ。なぜなのか。

無年金でも最低限の生活費は保障される

「弱肉強食で冷たい」イメージが強い米国だが、じつは下流老人は手厚く保護されている。貧困ライン以下の収入しかない人は、65歳になれば最低限の生活費となる補足的保障所得(SSI)を受給できる。他にも低所得高齢者向けの家賃補助や、低所得者・高齢者向けの公的医療保険などが受けられる。

白人男性のAさん(63歳)はかつて大手企業で約3年働いたが、職場の人間関係が原因で辞めてしまった。その後はホテルや建築関係などアルバイトの仕事を転々とし、仕事がなく収入が途絶えると、政府から月150ドルほどのフードスタンプ(食糧クーポン)をもらって食いつないできた。フードスタンプは正式には補足的栄養支援プログラム(SNAP)と呼ばれ、低所得者に最低限の食料を提供するためのものだ。

Aさんは収入が不安定なため、十数年前に家賃を滞納してアパートを追い出されてしまった。その後は車の中で寝たり、安い中古の小型ボートを買ってそこで寝泊りしたり、友人のアパートのソファーに寝かせてもらったりしている。ボートはマリーナに係留しているが、電気・水道、トイレ、シャワーなどは使えるので寝泊りできる。

彼はいま63歳で、本来なら公的年金のソーシャルセキュリティ退職年金(以下、SS退職年金)をもらえる年齢だ。SS退職年金は66歳から満額を、62歳からその75%を受給できるが、そのためには保険料であるSS税を最低10年間納付しなければならない。彼は会社勤めをした3年間しか納めていないので、年金はもらえない。

これから年齢と共に体力や気力が落ちて仕事ができなくなったら、どう生活していくのか、老後の不安はないのか。そう思って聞いてみると、「そんな心配はしていない」と意外な答えが返ってきた。なぜか。

米国では下流老人への公的支援がいくつも用意されているからである。まずは日本の生活保護に相当する補足的保障所得(SSI)だが、彼は65歳になれば月850ドル(約10万2千円)を受給できる。SSIは65歳以下の人が申請すると、病気や障害などで働けない就労不能証明をしなければならないが、65歳以上の場合は月収1000ドル以下で、現金・預金などが2000ドル以下という条件だけをクリアすれば良い。

他に収入の3割を払えば残りは政府が負担してくれる家賃補助も受けられる。これは連邦住宅都市開発機構(HUD)が行っている低所得高齢者向けのシニア住宅プログラム(SHP)で、条件は62歳以上で、貧困ライン相当の収入であること。これを利用すれば収入の3割を払えば良いので、例えば、家賃1000ドルの住宅でも、収入が月850ドルしかなければ255ドルを払えば良い。

Aさんは65歳でSSIを受給できたら、SHPを利用してシニア住宅に住みたいと考えている。それができれば、今のボートで寝泊りしている生活よりも快適に暮らすことができるだろう。だから老後が不安どころか、「2年後が待ち遠しい」と話す。

彼のような人が生活保護を受給したら、日本ならバッシングを受けそうだが、個人主義が徹底している米国ではあくまで個人の問題として考えるので、受給者に対する偏見も自身のスティグマ感もあまりない。従って下流老人は個人の権利として堂々とSSIを申請し、役所も条件さえクリアしていれば承認してくれる。

貧困レベル以下の人が65歳になればSSIが受給できるというのは、米国の下流老人にとって大きな救いとなっている。一方、日本では30年も40年も真面目に働いた人が年金だけでは生活できず、生活保護を申請しようとしてもなかなか受理してもらえない状況だ。この違いはいったい何なのだろうか。