低年金でも公的支援が受けられる

次は下流老人の家賃補助と公的医療保険について紹介したい。教育関係のNPO団体をリタイアした黒人女性のBさん(74歳)は月1030ドルの年金収入しかなく、ギリギリの生活を続けている。退職後しばらくは息子夫婦と同居していたが、孫がうるさくて好きな読書や書き物に集中できないのと、1人暮らしの方が性に合っていると思ったので、3年前に家を出ることを決めた。でも、彼女の年金では普通のアパートに入るのは難しいので、収入の3割を払えば住めるシニア住宅の入居申請をした。待機者が多くて2年近く待たされたが、1年ほど前にようやく入居できた。1ベッドルーム(居間+寝室)の住宅は1人ではもったいないくらい広く、地下鉄の駅やスーパーなども近くてとても満足していると話す。

家賃補助を受けられるのは生活苦を抱える下流老人にとって大きな救いとなっている。だからこそ米国ではシニア住宅プログラムを導入し、欧州でもほとんどの国は低所得高齢者向けの家賃補助を制度化している。一方、日本には低所得者向けの公営住宅はあるが、圧倒的に数が足りない。そのため下流老人の多くは仕方なく民間賃貸住宅に住み、「家賃を払ったら手元にお金がほとんど残らない」状況に追い込まれている。一刻も早い家賃補助制度の導入が求められるところだ。

家賃と同様に苦労するのが医療費の支払いである。Bさんは関節炎や心臓病などを抱え、診察費や薬代はかなりの額になるが、高齢者向けの公的医療保険メディケアでほとんどカバーされるので問題ないという。メディケアはSS税を10年以上納めた人が65歳以上から加入できる制度である。

米国には国民皆保険はないが、実は高齢者と低所得者は公的医療保険で守られている。前述のAさんは低所得者向けの公的保険メディケイドの適用を受けている。彼は数年前に前立腺肥大症が悪化して救急病院に運ばれ、治療を受けた。その後、前立腺がんの疑いも出て精密検査を受けたが、その治療費はすべてメディケイドでカバーされたという。

皆保険がない米国では高額の民間保険に加入していないと、病気になっても病院へ行けない、医者にかかると莫大な治療費を請求されて破産するといった話を聞くが、それは主に中流層(65歳以下の)の場合である。高齢者と低所得者は公的保険で保障されているので、あまりそういうことにはならない。

米国で多額の医療費や介護費が必要になった時に最も苦労するのは、そこそこお金を持っている中流層ではないかと思われる。上流層は高額の民間医療保険に加入すればなんとかなるだろうし、下流層は公的支援が受けられる。しかし、中流層は貯金や車、家などの財産を使い果たし、貧困層に転落しないと公的支援を受けられない。

「支援は施しではなくお返し」

Bさんは低年金でギリギリの生活だが、結構充実した毎日を送っている。地域のシニアセンターに通い、陶芸や文学、「自叙伝の書き方」などのクラスを受けたり、講演会やパーティなどに参加している。黒人女性として常に差別と向き合い、公民権運動に関わり、白人男性との結婚・離婚を経験するなど波乱に満ちた人生を送ってきた彼女は、それを本にまとめて出版するのが夢だという。

シニアセンターのカフェテリアは高齢者の交流場所になっている

シニアセンターは高齢者の自立を支援する公的施設で、各自治体が連邦・州政府の助成金を得て運営し、全米のほとんどの都市(計約1100カ所)にある。利用者(会員)の多くは独居高齢者だが、彼らが1日中1人で家にいると孤立しかねないので、シニアセンターではクラスや講演会、誕生パーティなどさまざまなイベントを実施している。また、カフェテリアでランチを食べたり、コーヒーを飲んだりしながら、気の合う仲間と雑談することもできる。