米国には移動住宅の「モービルホーム」が何十台、何百台と集まった集合住宅地「モービルホームパーク」(以下、MHP)が各地に存在する。キャンピングカーを改造して製造されたモービルホーム(トレーラーハウスとも呼ばれる)はアパートや一戸建てよりもかなり安く住めるということで人気を集めている。以前から低所得者やシングルマザー、移民者などに人気があったが、最近は低収入の退職者・高齢者の手頃な住宅として注目されている。

リタイアしてそれまで住んでいたアパートや持ち家を引き払い、安いモービルホームを購入し、MHPに移れば住居費を抑えることができる。小さくても「マイホーム」の気分が味わえ、掃除は楽だし、パーク内の他の住民との交流ができる。特に、一人暮らしの高齢者にとっては孤立の防止にもなる。モービルホームの生活スタイルを紹介しながら、日本の下流老人の住宅対策について考える。

退職後にモービルホームに住む人たち

62台のモービルホームが並ぶ「ガーケンズ・モービル・ホーム」

私はカリフォルニア州サンフランシスコから車で北東へ約40分のサンパブロ市にある「ガーケンズ・モービル・ホーム」(GMH)を取材した。GMHには62台のモービルホームが並び、子どもがいる夫婦や片親の子ども、高齢者などが住んでいるが、およそ4分の1は高齢者世帯だという。

約6年前に高校教師をリタイアしたジョンさん(仮名 73歳)は中古のモービルホーム(床面積は約27㎡)を6000ドル(約72万円)で購入し、サンフランシスコのアパートからGMHに移った。モービルホームといっても中にはキッチン、トイレ、バスタブ、シャワー、寝室、クロゼットなどが備え付けられ、普通の住宅とそう変わらない。

ジョンさんは公立の中学・高校で英語教師だった。本来なら公立学校の退職者は手厚い年金をもらえるが、彼は10年しか勤めていなかったので(約20年間は他の仕事をしていた)年金収入は少ない。そこで老後の生活費をできるだけ抑えるために家賃1100ドルのアパートを引き払い、GMHに移ったのである。

GMHの住民は全て自分のモービルホームを所有し、それを設置するための敷地料を家賃として月453~497ドル(広さによって異なる)支払う。ジョンさんはモービルホームの家賃と光熱費を合わせて月550ドルくらい払っているが、6年前まで住んでいたアパートの家賃の約半分だ。

彼はモービルホームでの生活は最高だと話す。「小型の冷蔵庫からクイーンサイズのベッドまで必要なものは全て揃っています。いろいろ物を持たないと満足できない人もいますが、私にはそんな趣味はありません。いくら物を持っても心を豊かにすることはできませんし、寂しさを埋めることもできないと思いますから」。

かつては妻と子ども2人と一緒に住んでいたが、妻とは離婚し、息子と娘は独立して他の州に住んでいるので、今は一人暮らしだ。でも、子どもや孫たちとは頻繁にスカイプで話しているので寂しくはない。それにGMHには子どものいる家族世帯も多く住んでいるので、彼らともよく話をしているという。

彼はモービルホームを自宅兼事務所にして簡単なビジネスを行っている。「マインドストーム」というロボットパッケージを使い、小学3~6年生を対象にロボットの作り方やコンピュータ工学の基礎などを教えている。15台のノートパソコンとロボットの組み立てキットを車に入れ、地域の小学校や放課後児童センター、サマーキャンプなどを訪れる。この仕事は生活費のプラスになるだけでなく、新しい生きがいや社会とのつながり作りにも役立っているという。ロボット作りを通して子どもたちに思考力や創造力を身につけてもらうことは、彼ら自身の将来や社会にとっても大きな意味があると思えるからである。

ジョンさんは週2〜3日、近くのYMCAで運動するなど、体は元気だ。1人で自立して生活できる限りはずっとGMHで暮らしたいという。