老人ホームより自由気ままに暮らせる

退職後にモービルホームに住む人が増えていることもあり、最近は55歳以上に限定したシニア専用のMHPが各地にできている。特に温暖な気候で退職者の移住先として人気のあるフロリダ州やカリフォルニア州などで目立つ。中には、クラブハウスやフィットネスジム、プール、テニスコート、図書館などの娯楽施設を備えた豪華なMHPもある。このような所では敷地料がやや高めに設定されているので中流クラスに近い収入がないと住めないかもしれないが、それでも他の住宅より安いのでモービルホームを選ぶ人は少なくないという。

また、高齢者専用のMHPの多くは町の中心部近くにつくられ、買い物や通院などに便利である。さらに24時間体制の警備を敷いて安全に配慮していることなども人気の理由のようだ。

住民の多くはモービルホームの他に自家用車を持っている
オアシスのような雰囲気の「ウィロー・モービル・ホーム・パーク」

カリフォルニア州中部のフレズノにはヤシの木が生い茂り、プールやホットタブなどを備え、オアシスのような雰囲気を持つ「ウィロー・モービル・ホーム・パーク」(WMHP)がある。ここは高齢者専用ではないが、高齢住民が約3割を占め、独居高齢者も多い。

特に住民に人気があるのは、毎週水曜の午前中に行われる「コーヒー&ドーナツ・タイム」である。多くの高齢者が集まり、コーヒーを飲み、ドーナツを食べながら、他の住民との雑談、交流を楽しんでいる。最高齢は106歳の男性だが、毎日元気にパーク内を歩き回り、他の住民と話をしているという。

老人ホームなどよりも自由気ままに生活できるということで、MHPに住む高齢者は少なくない。前出のジョンさんやアンディさんもできるだけ長くモービルホームに住みたいと話している。

GMHには、かつて退職後に妻と一緒に20年以上住んでいた男性(当時89歳)がいた。彼は妻が亡くなった時、周囲の人たちの勧めもあって老人ホームへ移ったが、モービルホームでの気ままな生活が忘れられず、2カ月後にGMHに戻ってしまった。老人ホームでは規律やルールに束縛されて生活しなければならないので、嫌になってしまったそうだ。男性はそれから訪問へルパーなどの支援を受けながら、94歳までGMHで暮らしたという。

これまでMHPには低所得者が多く住んでいるということで、「トレーラートラッシュ(トレーラーのくず)」などの悪いイメージがあった。しかし、最近は収入の限られた退職者・高齢者の手頃な住宅としての需要が高まったことなどで、悪いイメージが変わりつつある。その結果、高齢者も安心して快適にMHPに住むことができるようになった。

モービルホームの製造・販売業者やMHPオーナーなどで組織される米国移動住宅協会(MHI/本部バージニア州アーリントン)によると、米国には約4万5千カ所のMHPがあり、約750万人が住んでいる。そのうち35~40%にあたる250~300万人は55歳以上の高齢住民だという。

それでは、日本で下流老人の低価格住宅としてモービルホームが広まる可能性はあるのだろうか。日本でもモービルホームの販売店は結構あり、中古の小型モデルのモービルホームなら70~100万円くらいで購入することは可能だ。しかし、販売業者によれば、別荘用や店舗・事務所用などに使われるケースが圧倒的に多く、本宅用として使う人はほとんどないという。

そもそも住民票に対する考え方が米国と異なり、日本では移動できるモービルホームを住居として登録する(住民登録)という考え方がない。従って、モービルホームを購入し、どこかの土地に設置してライフラインを接続しても、そこにずっと住み続けることは難しい。地元の自治体がそれを住居として認めないだろうし、場合によっては違法建築物とみなされ、撤去を命じられる可能性もあるという。残念ながら、今のところは低所得高齢者の手頃な住宅としてモービルホームが広まる可能性はないようだ。