前々回のコラムで、米国の下流老人は様々な支援を受けて幸せに暮らしていると書いたが、今回は中流老人の生活に焦点をあててみたい。ある程度の収入と資産のある中流老人は個人で対応することを求められるため、公的支援はあまり受けられない。しかも米国には国民皆保険や公的介護保険がないので、中流老人は手厚い年金をもらっていても、いつ高額の医療費や介護費を請求されて下流に転落するからわからない不安を抱えている。それにどう対応すれば良いのか。中流老人の「光と影」に焦点をあてながら、「真のセーフティネット」とは何かについて考えてみたい。

中流老人の年金は結構手厚い

米国の中流老人は結構手厚い年金をもらっているというのが私の印象だが、その大きな理由として違う種類の年金を2つ以上受給できる人が少なくないことがある。

黒人男性のジェフリーさん(64歳)は大手通信会社に20年、NPOに5年勤めた後、経営コンサルタントとして独立して約15年になるが、社会保障年金を満額受給できる年齢(66歳)になったら、リタイアしたいと考えている。退職後は公的年金の社会保障年金と元雇用主の通信会社が提供するペンション年金をもらえるが、両方合わせて月4000ドル(約44万円)くらいになる計算だという。

彼のアパートの家賃は900ドルなので、比較的余裕のあるリタイア生活を送れるのではないかと考えている。3人の子どもはすでに独立し、妻とは離婚したので現在は一人暮らしだ。同じく離婚経験を持つ同年代の女性と付き合っていて、将来は結婚を考えている。リタイアしたら、趣味の旅行やハーモニカ演奏、詩の朗読などを楽しみたいと話す。

米国の年金制度には主に3つの種類がある。1つは公的年金の社会保障年金、2つ目は政府機関や企業等の雇用主が従業員に提供するペンションプラン(ペンション年金)、3つ目は政府機関や企業などの従業員が個人のリスクで資金を積み立てて運用し、退職後に給付を受け取る「401(k)」などの確定拠出年金である。

米国の労働者のほとんどは社会保障年金に加入し、退職後の収入はある程度確保している。また、労働者の約半数は社会保障年金の他に、ペンション年金と確定拠出年金の両方あるいはどちらか一方に加入している。

ペンション年金には雇用主が月々の保険料を全額負担するタイプと、その一部を被用者に負担させるタイプがある。これまで米国の大企業の多くは、優秀な従業員を確保するために会社が全額負担するペンション年金を提供してきた。従って、これらの企業の退職者は手厚い年金を受給して豊かな老後を送ることができた。

しかし、これは雇用主に大きな負担がかかり、ペンション年金が原因で倒産に追い込まれるケースも出てきた。そこで以前は全額負担していた保険料の一部を従業員に負担させたり、あるいはペンション年金をやめて確定拠出年金だけを提供する企業が増えてきた。ちなみにジェフリーさんが働いていた通信会社では、ペンション年金の保険料を会社側が全額負担してくれたそうだ。

一方、連邦・州政府や自治体など政府機関では今でも手厚いペンション年金を提供している雇用主が多い。カリフォルニア州環境保護局で有害廃棄物処理の技術者として25年間働いたリチャードさん(仮名 67歳)は6年前にリタイアした。カリフォルニア州政府職員は退職すると、「カリフォルニア州職員退職年金基金」(CALPERS)を通してペンション年金を受給するが、彼はなんと毎月4000ドルも受け取っている。

CALPERSは総資産2907億ドル(約34兆8840億円/2016年4月現在)、会員170万人を擁する全米最大の公的年金基金である。会員から預かった基金を不動産や株式、確定利付債などに分散投資し、年平均7.5%のリターン目標をほぼ達成しているというが、その積極的な運用姿勢は世界の株式市場や金融関係者からも注目を集めている。

CALPERSが高いリターンを得ているからこそ、リチャードさんは手厚い年金を得ることができるとも言える。彼はペンション年金に加えて社会保障年金も受給しているが、両方合わせると月5500ドル(約60万円)になる。日本でこれだけ高額の年金を得ている退職者は少ないのではないか。一戸建ての家を持ち、ローンはすでに払い終えている。趣味の旅行や写真、詩の朗読などを楽しみ、悠々自適なリタイア生活を送っているが、そんな彼にも中流老人に共通した不安はあるという。