日本では小学校への英語教育導入の是非を巡る議論が盛り上がっているが、若いうちから外国語を話せるようにしておくと、年をとってから報われることになるかもしれない。

「2つの言語を話すバイリンガルの人は加齢などによる脳機能の低下を遅らせることができ、認知症になりにくい」との研究調査が海外で続々発表されているのである。複数の言語を使用することで脳機能にどのような変化が起こり、それがアルツハイマー病など認知症のリスクを減らすのにどう役立つのかを海外の研究者の話も交えながら、明らかにする。

二言語使用は脳機能の低下を防ぐ

2つの言語を使用するバイリンガリズムと認知症のリスクについての研究調査が最初に発表されたのは、英語とフランスなど複数言語を使用する人が多いカナダである。カナダ最大の都市トロントにあるセント・マイケルズ病院(SMH)にはバイリンガルのアルツハイマー病患者が多く入院している。同病院の神経学者と老年心理学者はそのことに注目し、バイリンガリズムがアルツハイマー病の症状進行などにどう影響するかを調べる研究を行った。

研究チームはアルツハイマー病患者のデータを基に、病気の進行や認知能力がほぼ同レベルにある患者をバイリンガルとモノリンガル(一言語だけ話す)に分けて各々20人ずつ集め、彼らの脳をスキャナーにかけて調べた。結果は驚くべきものだったという。それ以前の臨床診断では識別できなかったが、スキャナーによってバイリンガル患者の脳はモノリンガル患者の脳よりも著しく委縮していることがわかったのだ。

主任研究員のコリーン・フィッシャー博士(老年心理学)は私の取材でこう説明した。
「重要な点は、バイリンガル患者の脳は委縮しているにもかかわらず、モノリンガル患者とほぼ同レベルの認知能力を維持していることです。つまり、バイリンガルの脳はアルツハイマー病による脳機能の低下が進行しないように何かによって保護されていると考えられます。それがバイリンガリズムによる効果ではないかと私たちは推測しています。バイリンガルの人は使う言語によって頭のスイッチを切り替えますが、それを繰り返すことで脳の神経回路が強化され、アルツハイマー病による脳機能の低下を防いでいるのではないかと思います」。

このメカニズムは科学的に解明されたわけではないが、その後に発表された他機関による調査でも、バイリンガルの人の脳はモノリンガルの人よりも記憶力や認知能力などが高いことが示された。

SMHで調査対象となった患者の平均年齢はバイリンガルが79歳、モノリンガルが77歳だった。バイリンガル患者のほとんどは高齢になってからではなく、若い頃から第二言語を学び始めた人たちだという。SMHでは2009年にこの研究を始め、2011年10月に調査結果を発表したが、内外で大きな反響を得た。