人口約560万人の「北欧の小さな国」デンマークは酪農品の輸出で有名だが、最近は「世界幸福度ランキング」で第1位の常連となっている。国連が2016年3月に発表した「世界幸福度報告書」(World Happiness Report)でも、デンマークは157カ国の中で「最も幸せな国」に輝いた。社会保障が充実し、貧困格差が少なく、個人の自由度や政府に対する信頼度が高いことなどが主な理由だ。

一方、この調査で53位となった日本は貧困格差が深刻化し、多くの人が幸せを感じられないでいる。特に若者のワーキングプアと高齢者の貧困問題が深刻化し、社会支援を巡って世代間対立も起きている。デンマークの高福祉高負担の制度、人々の生き方・考え方などを参考にしながら、人が幸せになる条件や幸福のあり方について考えてみたい。

仕事と生活のバランスが良い

デンマークの首都コペンハーゲンには1843年に開園した世界最古の遊園地、「チボリガーデン」がある。米国のディズニーランドをつくったウォルト・ディズニー氏はかつてここを訪れ、インスピレーションを得たと言われている。「家族や友人が一緒に楽しい思い出を作る場所」というのが当園のコンセプトだが、それは今日のデンマーク人の生き方、ライフスタイルにも共通している。

デンマーク人は、一般的にお金やステータスよりも家族や友人と過ごす時間を大切にする。この国では週37時間労働制が実施され、被用者は年間平均5~6週間の有給休暇を取り、仕事と生活のバランスを良くとっている。人々は現役時代からゆったりした生活をしているので、引退後もその延長として楽しむことができるという。日本の会社人間タイプの男性のように定年で仕事を辞めた途端にやることがなくなり、アイデンティティの危機に陥ることはない。

デンマークの高齢者はアクティブな生活をする人が多い。美術館巡りにコンサート、合唱団の練習、ゴルフ、旅行など忙しい毎日を送っている。ある高齢女性は「活動的に過ごすことで、心身共に若さを保てる気がします。いまとても幸せです」と話すが、アクティブな生活が幸福感にもつながっているようだ。

日本では孫の世話を押しつけられ、疲れ切ってしまう高齢者が増えているというが、デンマークではそれは考えられない。子育て支援体制がよく整っているので、子どもの世話を引退した祖父母に頼む必要がないからだ。6歳以下の子どもは基本的に公立の保育所への入所が保障されており、また小学生児童の学童保育の制度も充実している。保育園に申し込んでも入れない待機児童の問題が深刻化している日本からみると、羨ましい限りである。

充実した社会保障と高い税金

幸福のあり方などを研究する「幸福調査研究所」のメイク・ワイキング代表
幸福のあり方などを研究する「幸福調査研究所」のメイク・ワイキング代表

そして教育費は小学校から大学まで教科書代も含めて無料で、大学生には返済不要の就学支援金(生活費も含めた)が支給される。デンマークでは18歳を過ぎたら家を出るのが普通だが、大学生は支援金のおかげでアパートを借りて自立して生活できる。つまり、子どもの教育機会が親の経済力によって制限されないということだが、これは親にとって非常にありがたい。

人が幸せになるための条件や幸福のあり方などに関する研究を行っている「幸福調査研究所」(HRI)のメイク・ワイキング代表はこう指摘する。「他の国だったら、親は必死で稼がなければ子どもを大学に行かせられないと心配するでしょう。でも、この国では子どもの将来が親の経済状況に左右されることはないので、親は余計なストレスを抱えなくても済むのです」。

それは40~50代の中年世代の幸福度や生活満足度にも影響を与えているようだ。例えば、年齢と幸福度の関係についての調査をみると興味深い。多くの国では若年期と高齢期の幸福度が高く、中年期には低くなるのでU字カーブを描くが、ワイキング氏によれば、デンマークでは中年期の幸福度が下がらないのでほぼ横一線になるという。その理由として子どもの教育費や親の介護費、家族の医療費などの経済的負担が少ないからではないか、と同氏は推測する。

しかも年金制度が充実しているので、老後の心配は少ない。オーストラリアのコンサルティング会社「マーサー」が世界25カ国の年金制度の十分性や持続可能性などを評価した「グローバル年金指数ランキング2015年」で、デンマークは堂々の1位となっている。

デンマークの年金制度は国が運営する国民年金と労働市場追加年金(被用者を中心に強制適用される)、企業団体や労働組合などが運営する職域年金、個人で積み立てる個人年金で構成されている。国民年金は全ての受給者に最低限の所得を保障するもので、税金から支給される。低所得者に優しく(納めた税金分以上の年金がもらえる)、高所得者に厳しい(一定所得以上の人には支給されない)という特徴がある。

かつては国営の年金が主体だったが、1980年代頃から将来の高齢化の進展に備えて、民間の職域年金や個人年金の普及に力を入れ始めた。国営と民営のバランスを良くすることで、国民年金の税金負担割合を過度に増やすことなく給付の十分性を確保し、かつ制度の持続可能性を高めようとしたのだ。将来に備えて早めに制度を安定させる対策を取ったのは賢い。