矢部 日本の大学院生との交流もされたそうですね。

カンデル 老年学や高齢者支援学などを学んでいる大学院生20数人を対象に簡単なセミナーを行いました。彼ら自身がエイジング(年をとること)についてどう考えているかを知りたかったので、年をとってから何をしたいか、夢は何かなどを質問しましたが、あまり答えてくれませんでした。

自分の思いや考えを積極的に表現することを習慣としない社会では難しいのかもしれませんが、老いについてどう思っているのか、自分は何をしたいのかを考えるのは大切なことです。

そこで私は自らの考えや情熱に導かれて、高齢者向けの演劇学校を作った経験を話しました。当時はシニア演劇の健康効果はほとんど知られていなくて、受講生も集まらず、学校運営は非常に厳しかった。でも、生き残るために必死で高齢者関連の財団や事業者などに手紙を書いたり、演劇クラスの様子や受講生の話を収めたビデオを送ったり、クラス見学に招待したりしました。これらの活動を通して地域内でだんだん知られるようになり、受講生や寄付が集まるようになったのです。

矢部 日本の高齢者アーティストへのインタビューはいかがでしたか。

カンデル 25人の高齢者アーティストに話を聞かせてもらいましたが、私にとっては非常にパワフルで、深遠な経験でした。

仙台では、絵画や演劇、ダンス、楽器、歌、カリグラフィー(習字)などをしている60代から80代のアーティストに会いました。80代の女性は50歳を過ぎて子育てが終わり、自分の時間が持てるようになったので、若い頃から好きだった絵画を始めたといいます。2011年の東日本大震災では大きな被害を受けたが、それが動機となって地震と津波の絵を描き、展示会に出展したそうです。

顔を白塗りした88歳の日本舞踊家とカンデル氏
顔を白塗りした88歳の日本舞踊家とカンデル氏

また、88歳の女性舞踏家は顔を白塗りして日本舞踊を踊り、歌舞伎も演じます。沖縄出身の60代の男性は仙台で沖縄料理店を営みながら、店で週に数回沖縄民謡を歌うほか、失われつつある沖縄の言葉や伝統文化を守ろうと一冊の本にまとめて出版しています。

京都では88歳の男性画家に会いました。米国に長く住んでいて、英語が堪能でした。彼は教会や寺院、神社などに飾られた作品の写真を見せてくれた後で、1枚の絵をプレゼントしてくれました。

インタビューしたアーティストの多くは高齢になってからアートを始めた人たちですが、中にはプロとしてずっと長くやっている人もいました。しかし、ほとんどの人に共通していたのは自分の空間(世界)を持ち、それが創作活動の原点になっているように感じたことです。

全ての人が私を大歓迎し、手厚くもてなしてくれました。理由は私が彼らの話を聞きに行ったからだと思いますが、それだけ彼らは自分の作品を評価してもらいたい、話しを聞いてもらいたいと強く思っているのでしょう。プロとしてやっている人は別として、高齢になってからアートを始めた人はなかなかそういう機会をもてませんから。そこで提案したいのですが、高齢者アーティストの作品やプロフィールを紹介するプログやホームページを立ち上げれば良いと思います。そうすれば、彼らの素晴らしい作品が多くの人に知られるようになるでしょう。アートや高齢者支援の関連団体などが率先して始めれば良いと思います。

矢部 日本国内をあちこち旅行して回られたようですね。

カンデル 東京から仙台、京都、飛騨高山、鹿児島の屋久島などに行きましたが、特に屋久島の海中温泉は信じられないくらい素晴らしかったです。火山の噴火で放出された溶岩に囲まれた温泉が海中にあり、引き潮の時だけ入浴できるのですが、まるで空想の中にいるような感じでした。これまで多くの温泉に行っていますが、こんな所は初めてです。

飛騨高山ではサイクリングを楽しむ
飛騨高山ではサイクリングを楽しむ

それから富士山の登頂にチャレンジしました。バスで2300メートル(五合目)まで行き、そこから約4時間半かけて頂上まで登りました。途中の山小屋で休憩して午前3時半頃に頂上に着き、日の出を見るために5時頃まで待ちました。でも、その日はあいにく曇っていて見られませんでした。

登山は私にとってのチャレンジで、同時に自然の美しさを実感できる喜びでもあります。ただ、高齢者には少しきついので、体力に自信のない人や経験のない人にはお勧めしません。2年前にはネパールで、富士山よりもずっと高い6000メートルの山に登りました。