高齢者の演劇活動については当コラムでも以前、(「シニア演劇は面白いからやめられない!」2015年12月28日)として書いたが、この中で高齢者向けの演劇学校「ステージブリッジ」の活動を紹介した。この創設者のスチュアート・カンデル博士は4年前に学校運営から離れ、現在はカリフォルニア大学で高齢者のアート活動に関する研究を行っている。

カンデル氏は海外の高齢者視察の一環として5月初めから約2カ月間日本に滞在し、国際会議に参加したり、高齢者アーティストにインタビューしたりした。帰国直前のカンデル氏と都内の居酒屋で会い、日本での成果や、彼自身が提唱する「クリエイティブエイジング」などについて話を聞いた。

矢部 高齢者がアート活動を通して人生の質や健康度、幸福度を高めることができるという「クリエイティブエイジング」を提唱されていますが、少し詳しく聞かせてください。

スチュアート・カンデル(以下、カンデル) 私は1978年にカリフォルニア州オークランドで、米国初の高齢者向けの演劇学校「ステージブリッジ」を設立しました。そこでは演劇やダンス、ミュージカル、インプロ(即興演劇)、ストーリーテリング(個々の思いや体験をもとに物語を作って発表する)など、30以上のクラスを提供しています。これらのアート活動は体を元気にするだけでなく、脳の働きも活発にします。その後、米国内では高齢者向けの演劇学校や劇団がたくさん作られました。

多くの研究調査がアート活動には健康効果があることを示しています。演劇は高齢者の認知機能を向上させ、ダンスはパーキンソン病の症状緩和や予防に役立ちます。ニューヨークのダンススタジオではプロのダンサーがパーキンソン病の患者にダンスを教えています。また、ストーリーテリングやダンスはアルツハイマー病の治療に効果があることもわかりました。

高齢者のアート活動は他の世代の人たちにも良い効果をもたらします。例えば、100歳のアーティストが絵を描いたり、歌ったりして元気に楽しくしている姿を見れば、若い人たちも年をとることに良いイメージや希望を持つことができると思います。5月に参加した東北大学の国際会議ではこのような話をしました。

東北大学の「スマートエイジング」国際会議で講演するカンデル氏
東北大学の「スマートエイジング」国際会議で講演するカンデル氏

矢部 最近よく言われる「ポジティブエイジング」や「アンチエイジング」についてはどう思われますか。

カンデル 年をとることを過度に肯定的に、あるいは否定的に捉える必要はないと思います。私は若者から高齢者まで様々な世代と交流しますが、いつも実年齢を正直に言います。髪を染めたり、増毛したりして若く見せようとは思いません。年齢は単なる数字にすぎませんし、それ自体に大きな意味はないと思います。

私は68歳ですが、何かにチャレンジする時は16歳の少年のような気持ちになりますし、逆に今朝は80歳の老人のようでした。週末に富士山に登って体中の筋肉が痛み、体が思うように動かなかったからです。でも、富士山の頂上に立った時は最高でしたし、登山は私にとってのチャレンジなのです。

富士山の頂上に立った後、下山するところ
富士山の頂上に立った後、下山するところ

「ポジティブエイジング」や「アンチエイジング」などの言葉が流行る背景には、「若さを過度に賞賛する文化」があるように思います。特に米国ではそれが強く、多くの人が若くなりたい、若く見せたい、若者のように行動したいと思っているようです。でも、大切なのは自分を若く見せることではなく、全ての高齢者が何歳になってもやりたいことにチャレンジできるような社会にすることではないでしょうか。