本セミナーは働く年代の40~50歳を対象に、糖尿病と心不全の関係から、心不全の診断に有効な血液検査、正しい生活習慣を身につけることで心不全を発症させない予防のあり方などについて、4名の循環器専門医による講演が行われ、多くの参加者が熱心に聴講した。講演の内容については、2月中旬の日経新聞誌上において報告を予定している。今回は最後のプログラム、会場からの質問票による「トーク・セッション」についてリポートする。

■トーク・セッション
座長:小川久雄 氏 国立循環器病研究センター理事長
パネリスト:小室一成 氏  東京大学大学院医学系研究科循環器内科学教授
      斎藤能彦 氏  奈良県立医科大学第一内科学教室教授
      桑原宏一郎 氏 信州大学医学部循環器内科学教室教授
      野出孝一 氏  佐賀大学医学部内科学講座主任教授

日本循環器学会循環器疾患診療実態調査報告書(2016年度実施・公表)

◯ 質問1
2年前に狭心症を発症して(心電図で判断)、それ以後、薬を飲み続けていますが、心不全に移行する危険性は高いでしょうか。造影剤で冠動脈を見た際は異常なく、その後、発作が出たこともない状況です。(通信/主任研究員)

回答:小室氏

冠状動脈の造影検査をして異常がないということは、典型的な労作性狭心症の可能性はかなり低いと思います。通常、狭心症は冠動脈という心臓を養っている血管が動脈硬化で細くなってしまったために、坂道を歩いたり階段を上ったとき、心臓が速く動いて血圧も上がるので、より酸素を必要とします。つまり、血管が細いために十分な酸素を供給できなくなり心臓が痛くなる。冠動脈造影をすると細いかどうかはわかるので、検査結果で異常がないということは、実は細くなっていないのです。

では、細くなっていないと狭心症はないかと言われると、典型的ではない狭心症、「異型狭心症」という症状があります。これは動脈硬化がなくても血管がキュッと攣縮(れんしゅく)する病気で、その可能性は否定できません。実際に診療していないので判断は難しいですが、2年前に狭心症を発症して心電図で判断されたようなので、胸が痛いときに心電図を採って異常があれば本物かもしれません。

狭心症というのは痛いときだけ心電図に変化が現れるので、痛くないときに心電図を採って異常があっても、狭心症ではない可能性があります。ただ、いつも異常な場合は心肥大や心筋の病気である可能性があるので、全く問題ないとは言えません。

また、薬を飲まれているということで、どのような薬を飲んでいるかがわからないので詳しいことは言えませんが、薬を急にやめるのは非常に危ないです。普段からこの方を診ているかかりつけ医の先生は、体の症状や変化をよく知っていて必要な薬を出しているので、自分の判断で絶対にやめないでください。薬を急にやめると急に悪くなり、突然、心筋梗塞になったり、心不全になることは十分にあるので、薬を飲み続けることは必要です。

この方の体型や年齢がわからないので、なんとも言いようがないところはありますが、ただ、高齢者は年齢と共にどんどん血圧が上がります。70歳、80歳になると、3人に2人、ひょっとすると4人に3人は高血圧になります。そして、この高血圧自体が心不全の原因になります。この方は血圧を下げる薬を飲んでいる可能性があるので、自分の判断で薬をやめることがないようにしてください。かかりつけ医の先生に飲み続けた方が良いのか、それとも他の検査も行い、飲まなくても良くなるのかを相談していただくのが一番安全だと思います。

◯ 質問2
BNPが40あった。(父は不整脈を経てペースメーカー装着)医者にきいても、「これくらいならいいんじゃない」と言われるが、心不全に向かっているといった方がいいのか。今やるべきことは何か。今の状態をどう捉えたら良いか。(税理士法人/税務会計)

回答:斎藤氏

少し特殊で数はさほど多くありませんが、親がペースメーカーを入れていると、その子どももペースメーカーを入れるというケースが時々あります。そういったことも少し頭に入れておいた方が良いと思います。

講演でもお話したように、40というのはカットオフのポイントで、40より下であればあまり心配はなく、40の上だったら軽い心不全の可能性があります。それから、この方がその他の病気を持っているかどうか。例えば高血圧や糖尿病、もしくは尿の検査をしたら少しタンパク尿が出ているなど、慢性腎臓病も併存しているかどうか。それによってお話は少し変わってきます。

40という値は確かにかかりつけ医の先生が言われるように、それほどすぐに心配する値ではありません。しかし全く安心というわけでもない。一度はレントゲンを撮る、心電図を撮るなど検査をし、それでも心配であれば心臓の超音波検査、心エコーを一度受けるとかなりのことがわかると思います。

その上であまり大きな異常はないということになれば、例えば血圧が140くらいある場合は減塩をして血圧が少し下がるようにする、あるいは糖尿があったら少し食事療法を頑張ってみて、何カ月後にもう一度測ってみると良いでしょう。

ただし、次に測ったら80だった。これは少し気を付けた方がいいと思います。倍以上に上がったときは何か理由があるので、そのときはもう一度、医師に相談してください。次に測ってもまた40で、症状もあまり変わらないのであれば、そのまま少し経過をみても恐らく大きな問題はないはずです。しかし先ほど小室先生の質問があったように、狭心症といった病気、脈の病気はあまりBNPが動きません。そういった病気がゼロではないということは覚えておいてフォローしてください。

それから、父親がペースメーカーを入れているので、恐らく脈が少なくなってきた病気の可能性はあります。経過を追っているうちに脈が少なくなることがあれば、ひょっとすると父親と似たような病気も持っているのかもしれません。そういったことも少し気を付けてください。

今やることは何かについては、上記のような相談を医師にして、はっきりとした心臓病がないのであれば生活習慣に少し気を付ける、血圧の薬を飲んでいるならきちんと飲む。そういったことをしていただき、何カ月後かにもう一度測ってもらうのがいいと思います。私も直接この方を診察せずに言っているので、見落としや気づかないこと、忘れていることもかもしれませんが、一般的にはそのような回答になります。

座長コメント:小川氏

BNPはまだまだ一般的ではありませんが、心不全を血液で診断するという世界のスタンダードになっています。これは日本人が発見したもので、最近陰が薄くなりかけているので、日本人が発見した心不全のマーカーだということも皆さんによく覚えていただきたいと思います。

また、小室先生が言われた4回予防できるというお話ですが、がんと違って予防できる病気は数少なく、心不全は予防効果が一番大きな病気なので、ぜひそのことも覚えてください。

第1回終わり(第2回に続く)