■トーク・セッション
座長:小室一成 氏 東京大学大学院医学系研究科循環器内科学教授
パネリスト:斎藤能彦 氏 奈良県立医科大学第一内科学教室教授
      大屋祐輔 氏 琉球大学大学院循環器・腎臓・神経内科学教授
      筒井裕之 氏 九州大学大学院医学研究院循環器内科学教授

◯ 質問1
HEpEFには決まった治療法がまだありませんが、手術の半分はHEpEFなので、こうした患者さんをどのように治療したら良いでしょうか。急性心不全の増悪をどう防いだら良いでしょうか。

HFpEFによる入院治療は利尿薬から
さらに普段の生活の見直しも

回答:斎藤氏

これは最も難しい質問の1つです。HFpEF(拡張性心不全)で入院してきた人の治療は、まず利尿薬です。これは統一している回答だと思います。予防となると、今日の私の講演の中で事例としてお見せした患者さんは何年も診ている人で、冬になるとHFpEFが悪くなって入院してきます。そうした時は、普段の生活をもう一度チェックしてください。

まず過労は非常に大きな要素です。この患者さんの奥様は少し介護が必要なため、この人は頑張って介護をしているうちに、冬になって心不全が悪化します。それから風邪をひかないようにすること。「風邪は万病の元」というのは、まさにその通りです。

もう1つ、薬を飲み忘れないことも非常に大事です。利尿剤を飲まずにコントロールしている人もいますが、HFpEFが良くなる人は退院時に少し利尿剤が入っている人が多いと思います。そういう人が薬を飲み忘れると、止めたことの悪い効果が出やすいので、薬をきちんと飲んでもらうことが意外に難しいようです。特に高齢者になると難しいため、そういったことをチェックしてください。

他に、例えば心房細動が起きることも、恐らくHFpEFには大きな影響を与えているので、心房細動を防ぐこと自体難しいことですが、そうしたことも今後の治療法の選択肢に挙がってくると思います。

その人のクリニカルシナリオを見逃さない
日常の負荷や変動を注意深くみる

回答:大屋氏

長く外来で高血圧と糖尿病を治療していて、それなりにうまくいっていると思っていたところ、HFpEFで入院してくる、あるいは胸部の写真を見ると真っ白で入院してくる。そのうちの何%の人が心不全なのか、これは専門医でも難しいところです。「え、この人が‥」というケースもあるものの、そこは全く予想がつかないわけでもなく、高血圧にせよ糖尿病にせよ、少しだけコントロールが悪い場合がそれにあたります。例えば体重もそう大きく変わっていないが、ちょっと増えたというところに、何かきっかけが乗って悪化してしまうイメージです。

増悪因子は可能な限り避けることが重要で、そうなった時は注意して増悪因子を排除するようにしてください。これも筒井先生が講演の中で話されたように、その人のクリニカルシナリオ、「この患者さんは、これがあった時に悪くなって入院する」というポイントがあります。それぞれの患者さんで微妙に違うので、それを前もって、ある程度予測していくことが大切です。

これは私たちのような大学病院で診るというよりも、かかりつけ医の先生方の方が日常的に患者さんと接していて、その人の家庭での負荷はどれくらいなのか、それがどのように季節や時間帯などで変わるのか、よくご存じだと思います。そういったことを注意深くみて、心不全の増悪というイメージを持つだけでも、診療は大きく変わります。

それから、心房細動は大きなリスクになるほか、血圧や血糖の変動が大きい人も心不全になりやすいといわれています。それは病態が不安定であること。さらに生活習慣や薬物のアドヒアランス(患者さんが治療方針の決定に賛同し、積極的に治療を受けること)が少し悪いという場合も予測できるので、変動が多い患者さんは十分に注意をして診てください。

HFpEFは高血圧、心房細動以外の
基礎心疾患がないか常に注意を

回答:筒井先生

斎藤先生、大屋先生が言われたように、HFpEFの特徴は高齢で高血圧ベース、心房細動があるために拡張機能が障害され、ちょっとしたボリュームのオファーですぐ心不全が増悪します。しかし、利尿薬を使うと比較的すぐ良くなるので再入院を繰り返しやすいですが、少なくともその鬱血をコントロールするための治療薬としては利尿薬が重要です。

逆に言うと、利尿薬をうまく使えば比較的コントロールしやすいため、またすぐに増悪を繰り返しやすいことが高齢者のHFpEFの特徴です。

第4回の記事の中で、小室先生がHFrEFは拡張型心筋症や虚血性心筋症以外に、サルコイドーシスといった病気もあると指摘されました。HFpEFも、高齢者ばかりに目がいきがちですが、やはり最も多い原因は高血圧です。また、収縮性心膜炎は心筋自体の障害ではなく、心外膜の硬化によるもので、心筋のHFpEFを来すものとしては大動脈弁狭窄症もあります。診断はそれほど難しくなく、高齢者にはそうした疾患もあります。

それから、最近、私たちがよく経験するのは、アミロイドが沈着して左室の肥大が起こるアミロイドーシスです。教科書的には高血圧とは違い、心電図やエコーをうまく使えば鑑別できますが、日常の診療では高血圧性心臓病と思い込んでいた人の中にアミロイドーシスである場合があります。

アミロイドーシスの場合、入退院を繰り返す高齢者の高血圧性心疾患ベースのHFpEFという診断している患者さんの中に、大動脈弁狭窄症やアミロイドーシス、収縮性心膜炎がある場合があるので、HFpEFでも基礎心疾患は本当に高血圧、心房細動だけなのか、常に注意をしておく必要があります。

心不全の人は心房細動になりやすく、
心房細動の人は心不全が悪化する

回答:小室先生

確かに剖検例で心臓にアミロイドが沈着している人は、相当数いるので、実はHFpEFの原因はアミロイドの沈着ではないかと言っている人もいるほどです。老人性のアミロイドーシスというものがあり、これは年を取るとある程度沈着してしまうものです。

心房細動を繰り返すと、みなさんはすぐ脳梗塞と思いつきますが、実は脳梗塞になる以上に圧倒的に心不全になります。それはHFpEFも同様で、HFrEFでも心房細動が原因になり、心房細動は心不全と密接に関係しています。心不全の人は心房細動になりやすく、心房細動の人は心不全が悪化するため、非常に重要な疾患です。

大屋先生がSPRINT試験を出されましたが、血圧を120mmHg未満にしたら非常に良かった。良かったというのは、心不全がかなり減ったということです。血圧を下げて、数年の間にHFrEFがそれほど減るとは思えないので、HFpEFだと思います。臨床試験の場合、HFrEFかHFpEFかという区別はほとんどしません。だから、わからないのですが、これはHFpEFを減らしている可能性が高いと思います。

それから、筒井先生がSGLT2を使った臨床試験を出されましたが、あれも投薬は拡張障害が強いので、HFpEFによる心不全がかなり入っているのではないかと考えられます。それをSGLT2が押さえているので、もしかするとSGLT2阻害薬は、HFpEFの初めての薬になるかもしれないという期待があります。

◯ 質問2
BNPとNT-proBNPのどちらを使ったら良いでしょうか。使い分けの方法はありますか。

NT-proBNPは安定性があって使いやすいが
腎機能が低下していると値が高くなる

回答:斎藤先生

NT-proBNPとBNPは同じ遺伝子産物なので、増える機序は同じです。実際の現場で使いやすい理由は、一つに安定性があることです。例えば、今日採血をして明日検査室に出すという条件であれば、NT-proBNPの方が圧倒的に安定しています。採血したまま置いても問題はありません。

一方、BNPの場合は、その日のうちに血漿分離をしてその日に出さなければいけません。少し煩雑なため、その意味では、かかりつけ医の先生方にとってはNT-proの方が便利です。

NT-proBNPは、腎臓の機能にかなり影響を受けるので、腎機能の低下している症例では値が高く出ます。つまり、それほど心臓が悪くなくても悪いと思ってしまう可能性があるため、その両方を加味してお使いください。

一人の患者さんをずっとフォローする場合、どちらでも同じように使えるので、どちらかでなければいけないということはありません。

第5回終わり(連載5回)