提言2:新たな心臓病医療の体制(専門性連携)を構築する
東邦大学医療センター大橋病院循環器内科 教授 中村正人 氏

疾病構造の変化と高齢化により、疾患数は増加し、特に多くの合併症を有する複雑症例も増加してきています。一方で、循環器診療は大きく進歩を遂げ、低侵襲化が進み大動脈弁等、従来、外科的手術を必要としていた症例もカテーテルベースで、症例によっては治療が可能になってきました。このように専門性の高い治療手技が確立し、高度先進医療も実践されるようになってきています。

こうした疾病構造の変化や複雑な症例の中で、いかに診断のプロセスを明らかにし、実際の治療を行い、その後のフォローを行なっていくかが、喫緊の課題であり、問題を解決するためには、専門性の連携が必須となっています。

この専門性の連携における課題を、大きく3つ挙げました。
1.ハートチームをはじめとしたチーム医療の構築
2.心臓病ガイドラインの活用
3. 医療の適正化

まず、1つ目のハートチームの構築については、諸外国と日本では医療環境が大きく異なり、一律にハートチームの構成を規定することは困難です。また、従来のハートチームは、リーダーである医師のためのチームになりがちでしたが、現在では患者のために組織することが求められています。これを実現するためには、医師のみならず、看護師や技師、薬剤師などコメディカル等を含めた包含的なチーム医療が必要です。単一の病院で形成できない場合は、診療圏内複数の病院で形成されるなど、有機的に活動できるハートチームを病院ごとに考えていくことが重要です。

次に、ガイドラインについてですが、2017年春から日本循環器学会で「冠動脈血行再建のガイドライン」の改訂版を策定中ですが、これまでと大きく異なるのは、これまでバラバラだった心臓外科、循環器内科が一緒になって1つのガイドラインを作成しているところです。

そして3つ目の課題ですが、現在、日本では、冠動脈バイパス術(CABG) 1万件に対し、心臓カテーテル治療(PCI) が23万件実施されていると言われてきました。虚血性心疾患は、心筋梗塞や不安定狭心症などの急性冠症候群と、慢性の安定した狭心症に分けられるが、この中で急性冠症候群に対する血行再建は、おおむね適正とされていますが、安定冠動脈疾患に対する血行再建は、患者本位の医療を確立するために、不必要なカテーテル治療を減らすなどの適正化が重要課題となっています。

心臓病医療において新しい技術を加えていくためには、新しい治療法は当然として、従来の治療法も適正化を図ることが求められています。昨年末から、九州大学教授の筒井裕之氏が心不全治療のレジストリを、私がPCI適正化のレジストリに取り組んでいます。

こうしたレジストリづくりが適正化の評価に繋がり、心臓病医療のチェックを可能にすることができれば、心不全治療などの様々な領域の適正化の1つのモデルとなり、心臓病医療は大きく変わっていくと考えています。

提言3.『脳卒中・循環器病対策基本法』制定を実現する
国立循環器病研究センター理事長 小川久雄 氏

2006年に成立した「がん対策基本法」によって、がん医療が大きく進展したように、心臓病医療も基本法制定によって、医療の均てん化、医療体制の整備、研究の促進、研究成果の活用、医薬品及び医療機器の早期承認に資する治験の促進など、早期に実現されることが重要です。

また、がん対策基本法が実現したもう一つの効果は、一般の人たちのがんへの関心の高まりと理解です。心臓病への関心と理解を高めるためには、「脳卒中・循環器病対策基本法」の必要性を広く知らしめ、社会運動に高める必要があります。

本提言では、循環器領域の疾患として位置づけられる脳卒中と心臓病(循環器病)の2疾患への対策である「脳卒中・循環器病対策基本法」の制定実現を強く進言します。

「脳卒中・循環器病対策基本法」(案)の基本理念
・予防と発症時の適切な対応に関する市民啓発
・全国どこでも、適切な救急搬送・救急受診によって速やかに医療が開始され、
 維持期まで継ぎ目なく継続されること
・後遺症患者と家族の、生活の質を維持・向上させ、社会参加を促すこと
・専門的、学際的、総合的な教育・研究の推進、普及、活用
・情報収集体制を整備し分析して活用すること

脳卒中・循環器病対策基本法案は、単に平均寿命の延長を目指すのではなく、健康寿命の延伸と生活の質の向上を図ることを目標にしています。このことは、脳卒中および循環器病に対する国民の福祉向上に加え、総医療費・介護費の抑制にも繋がります。

また、現在これらの疾患に罹患している患者とその家族ばかりでなく、次世代の国民にとっても重要な法案であり、がん対策基本法に次ぐ第2の医療基本法としての成立が望まれます。