心不全の予後は胃がんと同じ

小室先生は「心不全は4回予防ができる」と繰り返し言われています。これについて、詳しく教えてください。

小室 心不全はあらゆる循環器疾患、特に心臓疾患の終末像です。ただし、心臓疾患や血管疾患になっても必ずしも心不全になるわけではなく、発症するのは一部の人です。では、どんな人が心臓疾患になりやすいかというと、高血圧、肥満、糖尿病、コレステロールが高いといった人たちです。

逆に言えば、心不全にならないための最初の予防は、良い生活習慣を身につけること。暴飲暴食をしない、塩分を摂り過ぎない、煙草を吸わない、運動をして太りすぎないことが心不全の予防の第一歩であり、生活習慣の乱れをなくすことが「0次予防」です。

ところが食べ過ぎて太ってしまった、塩分を摂りすぎて血圧が高くなってしまった、さらに血糖やコレステロールが高くなってしまったという人は心筋梗塞や不整脈などの心臓病になりやすくなりますが、皆がなるわけではありません。遅すぎることはないので、心臓病になる前に生活習慣を改善すれば良いのです。肥満や高血圧、糖尿病、脂質異常症を少しでも改善し、脳卒中や心筋梗塞にならないようにするのが「一次予防」です。

しかし、生活習慣の改善が十分できずに心筋梗塞や弁膜症になってしまった、あるいは不整脈が出てしまった場合はどうしたら良いのか。この段階で気をつけなければならないのは、心筋梗塞を繰り返さないことも重要ですが、さらに重要なのが心不全にならないことです。先ほどお話したように、心筋梗塞や弁膜症、不整脈があっても心不全になる人は一部なので、心不全にならないようにすることが「二次予防」です。

「心不全にならないようにする」というのは、心筋梗塞や弁膜症、不整脈の治療を受けるということですね。

小室 その通りです。血圧が高い人は血圧を下げる薬、心筋梗塞になった人は心臓を守る薬など、決められた薬を忘れずに服用することが心不全にならないためには極めて重要です。同時に暴飲暴食、過剰な塩分摂取、過労、感冒などにも気を付けることも忘れてはなりません。

通常、心不全は動いた時の息苦しさで発症がわかりますが、一度心不全になってしまった人でもさらに予防ができるのです。心不全を発症して病院に入院したほとんどの人は、ある程度元気になって一旦は退院できます。しかしこれは治ったわけではなく、慢性心不全になり、急性増悪して入院を繰り返すことによって、徐々に死への階段を下りることになります。そこで急性増悪しないために、薬の飲み忘れに注意し、日常生活に気を付けることが何よりも大切です。二度と心不全で入院しないように日常注意すること、これが「三次予防」です。

まとめると、生活習慣の改善が0次予防、心臓病にならないことが一次予防、一回目の心不全を起こさないことが二次予防、そして2度と心不全を繰り返さないことが三次予防で、心不全は4回予防できるのです。

生活習慣の改善が大事なことは多くの人がわかっていると思いますが、それをおろそかにすることで、心臓病からやがて心不全を発症して最後は死に至る。そのことと、正しい生活習慣がなかなかつながりません。「心不全の予防は生活習慣の改善」といった時点で、その難しさを感じます。

小室 問題は、心不全の怖さが理解されていないことにあります。日本人はがんで亡くなる人が多いですが、高齢者ではがんと循環器病で亡くなる方はほぼ同じです。つまり年を取って亡くなる場合は、がんか循環器病の終末像である心不全ということになります。多くの人は、胃がんになった、肺がんになったというと、とても怖がるでしょう。

しかし、一度でも心不全で入院したら、その予後は胃がんと同じぐらいにもかかわらず、多くの人は怖がりません。怖がらないこと自体は良いのかもしれませんが、そこに大きな問題があります。遺伝子の病気であるがんを予防することは容易ではありませんが、心不全は生活習慣を改善することによって予防できるのに、心不全の怖さがわかっていないために本人が予防しようとしないのです。

心不全で一度入院したら、その予後は胃がんと同じと言われました。おどかすわけではありませんが、それほど心不全は怖いものだという啓発も必要ですね。

小室 胃がんと同じように、心不全は怖いものだと理解して欲しいと思います。胃がんは発症してしまったら医師に任せるしかありませんが、心不全は一度発症しても本人が気をつければある程度は悪化が防げるので、そこもがんとは大きく異なります。がん以上に心不全がどういうものなのか、多くの人にわかってもらうことが極めて重要です。

現在、日本の心不全患者数は100万人を超えており、総人口が減っているにもかかわらず、2035年頃まで患者数は増え続け、高齢化に伴って132万人まで達すると推定されています。特に、心不全は高齢者の病気です。年を取ると循環器の病気になることが多いですが、とりわけ心不全は苦しく、楽しい生活が送れないまま多くの人は寝たきりになってしまいます。暴飲暴食、喫煙、薬の飲み忘れなどの生活習慣に気をつけることに加え、高齢者の場合は過労に注意することも大事です。

こうしたことを心がければ救急車で病院に運ばれることもなく、たとえ心不全を発症したとしても長生きができます。逆に正しい生活習慣を怠ると、何度も心不全を繰り返し、徐々に入院期間が長くなって、最後には命を落としてしまう。高齢になっても健やかに人生を楽しく過ごすためには、繰り返しますが、常に生活習慣を改善することがポイントになります。